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ロキは腰に下げてるバックから、昨日買ったリンゴの様な果物を五つ取り出すと、それぞれに一つずつ投げ渡した。
「……なぁ、そのバックどういう仕組みだよ?」
明らかに果物が五つも入るような大きさのバックではない。せいぜい参考書が一冊か二冊、入るか入らないかのサイズから出てきたために、思わず聞いてしまった。
「あ? 『魔法鞄』だよ。お前らの世界には存在しねーのかよ?」
「そんな便利な道具あったら、苦労しねーよ……」
学生時代、長期休暇やテスト前に置き勉してた教科書やノートをカバンに詰めて、必死に持ち帰っていたのを思い出す。徒歩で通っていたために余計に辛かったことを考えると、なんと便利なバックなのだろうか。
それを見透かしてか、木箱の上に座ってるロキが見下すように鼻で笑う。クソっ、へし折りたいあの鼻!
「セージさんにこの世界や、四大公爵家について詳しくお聞きしようと思っていたんです」
「ふーん? それで図書館かよ……」
ロキは立膝に腕と顎を乗せたポーズで「それなら、僕に言えばすぐ済む話だけどな」と、シャリっと果物をかじった。
「もー、何言ってるのロキ。ロキが今朝からずっと見当たらなかったし、昨日の夜から口聞いてくれなかったから、頼めなかったんじゃないか!」
「そうだっけ?」
プンプンと怒るセージとは反対に、そっぽを向いてしれっとシラを切ろうとするロキ。
「そもそもロキロキ。昨日の状態じゃ、誰も頼めないよ〜?」
「だって嫌いなもんは嫌いだし。嫌いな奴に手を貸したいとは、誰も思わねーだろ」
一理ある。嫌いな奴や苦手な奴に自ら好き好んで手を差し伸べるのは、とんだお人好しか馬鹿だな。
俺はおずおずと、片手を上げて聞いてみる。
「……えーっと、じゃあ俺らもしかして、まだ嫌われちゃってたりしちゃってたりし……」
(即答かよ!)
ロキはべーッと舌を出して、俺を睨む。自覚はしてたがやはりか。
俺と伊織は苦笑いをしながら、小さくため息を着く。
「えっと……ではロキさん。『ロキさんに頼めばすぐ済む話』と仰ってましたが……具体的にはどのように?」
伊織の質問に、ロキはニィっと子供が悪戯をする時のような、悪い顔をする。あ、これ絶対合法的な方法じゃないな。
ロキは指を鳴らすと、魔法鞄に手を入れる。ガサゴソと漁りながら、すっぽりと肘まで入っている。マジでどうなってんだよ、それ。
「……あー、どこぶっ込んだかな……? あの女狐ババァからかっぱらってきたやつ……。適当に放り込んだからなぁ〜……」
「……!? 待ってロキ! それってもしかして、アン……」
「あー、あったあった。コレだ!!」
ロキはバックから、古びた本を一冊取り出した。……案の定文字は読めないが、表紙には四つの紋章とその中心で両手を合わせて祈るような、女性の絵柄が大きく書いてあった。
「なんだコレ……?」
「紋章の一つは……。先程の教会や図書館で、見たものと同じですね」
「これは建国神話について書かれた、話の本です……」
セージがどこか申し訳なさそうに答える。そして小声で「すみません……。どうかお許しください……」と神に祈るように……いや、縋るように謝っている。……セージは一体誰に対して謝ってるんだ?
何故か今は聞いてはいけない気がしたので、そっとスルーする。
ロキが雑にページをめくる度に、セージは小さく悲鳴じみた声を出すが、本人は完全にスルー。見た目もかなり古そうだし、セージのこの反応……実はかなり貴重な書物なのではないか……?
「ほら、このページだ」
ロキは開いたページを俺たちに放り投げる。俺は慌てて受け取ると、後ろのセージと共にホッと息をつく。いや、これ絶対大事な本だろ!?
「コレは……何かの説明でしょうか?」
横から覗き込む伊織の言葉に俺も本を見る。確かに、そこには紋章の隣に見出しのような太字の文字と、説明のような文章が書かれていた。
「そのページに書かれているのは、この国の基盤とも言える四大公爵家の紋章と主な魔法の性質です」
セージは指をさしながら丁寧に教えてくれた。
紋章は、それぞれの家の魔法の性質をあしらっているのだろう。『水』を表した水滴や水流、『火』を表した炎や太陽、『風』を表した鳥や妖精のような羽根、『地』を表したような岩や木々……など、家柄によって様々な模様だ。
「今この国は様々な問題を抱えていて……。その一つに、王族の派閥が大きく三つに別れてるんです」
「三つ? なんでそうなってるんだよ?」
ふと、視界の隅でロキが「チッ」と舌打ちをしながら、爪を噛んでいる姿が見えた。セージは少し困り顔で悩むと、意を決したように口を開く。
「……こちらは僕達の国や世界の問題なので、出来ればヤヒロさんたちは巻き込みたくはないのですが……。はい、この世界で生きてくには一応知っておいた方がいいと思います!」
そう言ってセージは地面に五つの円と文字を書いていく。
「今、この国は代々『白亜の始祖』と呼ばれる……。純血の白亜の中でも、特に血や魔力が強い方々が納めています。そして時期王候補は二人。それが派閥を分ける原因となっております」
セージの話を要約するとこうだ。
現国王は嫡子であった一人息子に、時期国王を継がせるつもりだったらしい。だが、数百年前に起きた、聖戦と呼ばれる大きな大戦で死去。そこで現国王は亡くなった息子の子で……。つまり自分の孫にあたる異母兄妹の二人に、それぞれ王位継承権を持たせて競わせているらしい。しかし、それが派閥を分ける要因の一つなのだそうだ。
兄である王子は『白亜純血主義』を掲げる、ウィングベルグ家の娘の子。一方、妹である王女は『反純血主義』を掲げる、フレアファイア家の娘の子。つまり、この二つの公爵家の後ろ盾によって、この兄妹のどちらが玉座につくかで国の行く末が大きく別れるらしい。
そのためウィングベルグ家もフレアファイア家も、昔からかなり仲が悪いらしい。そしてガイアナアース家はウィングベルグ家に。ウォータオグロース家はフレアファイア家に、『中立』という立場でそれぞれがついているのだそうだ。
そして現国王はかなりのお歳だそうで……。出来れば存命のうちに、四大公爵家としては時期国王を決めておきたいのだそうだ。
「でもそれってさ、普通長男で王子である兄貴の方が継ぐのが、普通なんじゃねーか?」
俺の言葉に、セージがなんとも言えない表情で笑う。と、後ろからロキが笑いながら足をばたつかせた。
「そりゃあその王子がボンクラ息子だから、現国王も出来れば継がせたくねーのさ!!」
「ぼ、ボンクラ……?」
何がおかしいのか分からないが、ロキはひとしきり笑うと「だってよ〜!」と、口を開く。
「あの馬鹿息子、完全にウィングベルグの操り人形だし! 母親に甘やかされてんのバレバレなくらい、ドラ息子な上によ〜」
「ロ、ロキ……! それ以上は」
「しかもよりによって敵対してる女狐ババァの、『フレアファイアに求婚』してんだぞ!!」
「「……は?」」
正直意味が分からなくて、伊織と共に思わずハモってしまう。
(長男の兄貴が、ウィングベルグ家の操り人形なくらい甘々に育てられたドラ息子で、敵対してるフレアファイアのバ……いや、女性の誰かに『求婚してる』だと……?)
何をどうしたら、そんなに考えに行き着くのか。全くわからん。
「あの〜……ちなみになんだが。その、フレアファイア家の方は……?」
「完全に脈ナシでやんの。ババァもめっちゃウザがってる」
「ロキ! 一応恐れ多くもこの国の時期国王になるかもしれない方だよ! 例え本当に、ウンザリしてあしらっているのが事実でも、そんな風に言うのは失礼だよ!!」
「いや、お前も大概なこと言ってるぞ?」
悪気はないだろう……素でしれっと毒を吐くセージに、ロキが冷静にツッコミを入れる。
「えーっと、つまりそういうことなので……。今の王位継承権、第一位は妹君である王女様がお持ちで、兄上様の王子様は第二位なのです……」
「まぁいくら『孫が可愛い』と贔屓目に言ったとしても、そんな王子に素直に継がせたくはないよな……」
「はい……」
国の内部事情はなんとなく把握した。いくら身内贔屓したとしても、そんな孫には継がせたくない。
「それにもし、妹君の王女様が『反純血主義』の女王として即位されたら、ロキだって……」
「セージ!!」
ロキの怒気を帯びた声に、俺たちはビクッと身を震わせて黙る。ロキはハッとして俺たちを見ると、直ぐに顔を背ける。
「お、お前は『神官』なんだ……。自分の私情なんか持ち込んで、変なとこに首突っ込んでめちゃくちゃにすんなよ……!!」
そう言って踵を返して歩き出す。
「おいロキ! どこ行くんだよ!」
呼び止めようとする俺に、ロキは顔だけ振り返る。
「別にどこだっていーだろ。着いてくんなハゲ」
そう言って舌を出して再び屋根から屋根へと、どこかへと跳んで行った。
「相変わらず、自由なやつだな……」
そう呟く俺とは正反対に、なにか言いたそうにロキの去っていった後を、セージはジッと見つめていた。
「僕は『神官』です……私情は挟まず、ただ神からの神託を人々に伝えればいい……それだけでいいんです……」
「……ん? 何か言ったか?」
セージが何か言ってた気がしたので、俺は聞き返す。セージはいつも通りの顔で「なんでもないです。ただの独り言です」と微笑んだ。
「さて……図書館に行けなかったのは実に残ね……ゴホン。大変痛かったですが、四大公爵家やこの国の内部事情には少し理解出来ました」
「そうだな。図書館の前はしばらくは歩けねーだろうし、セージが良ければこの世界の文字を教えてくれないか?」
今朝からずっと頼もうと思っていたことを、ようやくセージに切り出せた。一方セージはと言うと、一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに笑顔で答えてくれる。
「はい、僕でよろしければ喜んで!」
「ほらヒナ、お前も一緒に……」
俺は今まで気づかなかった。いや、見落としていた。
『一番食いつきそうな話の時に、一番食いつきそうなやつが食いつかなかった』ということに。
俺は眉間に深いシワを刻みながら、深いため息を着く。それに気づいた伊織が何事かと思い近寄ってきて、一瞬にして察した。
「ヤ、ヤヒロさん……まさか……!?」
「あぁ……、完全に気を抜いてた……」
俺たちは二人して頭を抱える。