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放課後の部室棟の廊下は、西日に照らされて気怠げなオレンジ色に染まっていた。
面や胴といった重い防具の片付けを終え、少し休もうと冷たいペットボトルの水を喉へと流し込む。その背中に、ひんやりとした指先が突然ペタリと触れた。
「っ……、」
「先輩、今びくってなった。…ビックリしました?」
振り返れば、そこにはいつの間に現れたのだろうか、制服のシャツをラフに着崩した景燃が涼しい顔で立っていた。
「部室の鍵、今日先輩が当番でしたよね?先輩と帰れるかも〜って慌てて飛んできちゃいました」
嘘とも本当ともつかない軽口を叩きながら、景燃は悪戯っぽく笑う。そんなマイペースな後輩にどう対応したものか、漂泊者は少しだけ困ったような表情を浮かべた。
そのどこか無防備な横顔を見つめながら、景燃は大きな瞳を少しだけ細め、ふと、これまでのことを思い返す。
入部したての頃、漂泊者のことはもう少し冷たいヤツだと思っていた。しかし、蓋を開けてみればむしろ無自覚にフラフラと危なっかしい行動をとる漂泊者に、いつの間にか巻き込まれていたのは景燃の方だった。呆れながらも放っておけず、気がつけば漂泊者から色んな意味で目が離せなくなっていたのだ。
「ほら、もう片付け終わってるんでしょ?日が沈む前に帰りましょうよ」
「あぁ、分かってる。…まて、それは俺の荷物だろう」
「いいじゃないですか。先輩が変なところで足元すくわれたら面倒くさいの、俺なんですから」
ふっと挑発するように笑う景燃に、調子のいい後輩を持ったものだと漂泊者もつられて微笑んだ。
部室の扉を鍵で締め、二人は並んで夕暮れの校庭へと歩き出した。
長く伸びた影法師が、二人の関係を表すかのように地面の上で交わるようで交わらないまま、一定の距離を保って寄り添っている。
「ねえ、先輩」
ふと、景燃が歩を緩めずにつぶやいた。
「なんだ?」
「次の大会、個人戦で優勝したら伝えたいことがあるって言ったら…先輩は困ります?」
漂泊者の足が思わず止まる。
西日に照らされた景燃の横顔は、いつもの飄々とした笑みの奥に隠しきれない熱を揺らしていた。
高鳴る鼓動を隠すように、漂泊者は小さく息をつき、そして少しだけ普段の景燃を真似て悪戯っぽく笑ってみせる。
「…それはあなたが優勝した時に考えてみるよ、景燃」
夕暮れの風が二人の長い髪を揺らし、まだ名前のつかない甘酸っぱい余韻を乗せてどこかへ吹き抜けていった。
コメント
1件
おお、めっちゃ良い青春の空気感……! 剣道部っていう設定、好きだわ。いきなり「びくってなった」ってからかう後輩・景燃の距離感が絶妙で、読んでてこっちまでドキドキした。漂泊者の「困ったような表情」も、そのあとつられて微笑むところも、まだ名前のない関係性が夕暮れの影みたいに寄り添ってて……次の大会がどうなるのか、すごく気になる展開だね🔥 続き、楽しみにしてます!