テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゆゆゆゆ
16
ゆゆゆゆ
76
29
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……弾薬がない」
ピザガイが言った。
事実だった。
残りのショットガンシェルは七発。
ライフル弾も心許ない。
終末世界でそれは、寿命が見えているのと同じ意味だった。
⸻
「じゃあ探そう!」
エリオットは元気だった。
いつも通り。
⸻
「探してどうにかなる量じゃない」
⸻
「でも探さないとどうにもならないよ?」
⸻
それはそうだった。
⸻
そんなわけで。
二人は物資探索のため、崩壊した郊外を歩いていた。
⸻
そして。
見つけてしまった。
⸻
巨大な鋼鉄製の扉を。
⸻
山の斜面に埋め込まれた、軍事施設みたいなシェルター。
⸻
「なんだこれ」
⸻
「秘密基地?」
⸻
「趣味が悪い」
⸻
扉の横には監視カメラ。
動いている。
⸻
生きている施設だった。
⸻
数秒後。
⸻
スピーカーが鳴った。
⸻
「貴様ら」
⸻
老人の声だった。
⸻
「ピザ職人か?」
⸻
「え?」
⸻
エリオットとピザガイが同時に固まる。
⸻
「制服で分かる」
⸻
老人は断言した。
⸻
確かに二人は今も赤い制服を着ていた。
ボロボロになっても。
何度補修しても。
⸻
Builder Brother’s Pizzaの制服を。
⸻
「中へ入れ」
⸻
重い扉が開いた。
⸻
⸻
中は別世界だった。
⸻
照明。
⸻
空調。
⸻
清潔な床。
⸻
温かいシャワー。
⸻
まともなベッド。
⸻
そして。
⸻
大量の武器。
⸻
「うわ」
⸻
エリオットが目を丸くする。
⸻
「すごい」
⸻
「金持ちだな」
⸻
ピザガイも少し引いていた。
⸻
施設の主は老人だった。
⸻
白髪。
高級スーツ。
気難しそうな顔。
⸻
いかにも偏屈そう。
⸻
「私は世界崩壊前、食品業界の王だった」
⸻
誰も聞いていないのに語り始める。
⸻
「特にチーズ」
⸻
「チーズ」
⸻
「チーズだ」
⸻
どうやら重要らしい。
⸻
老人は二人を巨大な冷蔵庫へ案内した。
⸻
そして。
⸻
誇らしげに扉を開く。
⸻
「見ろ」
⸻
そこにあった。
⸻
巨大なチーズ。
⸻
いや。
巨大というより。
神々しい。
⸻
宝石みたいだった。
⸻
「なんか光ってない?」
エリオットが言う。
⸻
「気のせいだ」
とピザガイ。
⸻
「いや光ってるよ」
⸻
実際ちょっと光っていた。
⸻
「世界最後の最高級熟成チーズだ」
老人は胸を張る。
⸻
「崩壊前に私が買い占めた」
⸻
「最低だ」
⸻
エリオットが即答した。
⸻
「だから市場から消えたのか」
⸻
ピザガイも納得していた。
⸻
老人は咳払いした。
⸻
「条件がある」
⸻
来た。
⸻
終末世界では必ず来る。
⸻
条件。
⸻
「これを使って最高のピザを焼け」
⸻
「え」
⸻
「私を満足させたら弾薬を譲る」
⸻
「どれくらい?」
⸻
老人は指を鳴らす。
⸻
倉庫の扉が開く。
⸻
大量の弾薬。
⸻
山。
⸻
本当に山。
⸻
「うわ」
⸻
エリオットが引いた。
⸻
「欲しい」
⸻
「欲しいな」
⸻
珍しくピザガイも即答した。
⸻
⸻
数十分後。
⸻
二人は即席厨房に立っていた。
⸻
問題は。
⸻
設備が妙だった。
⸻
超高級オーブン。
⸻
超高級ナイフ。
⸻
超高級調理台。
⸻
そして。
⸻
料理経験ゼロの金持ちが趣味で揃えた設備。
⸻
使いにくい。
⸻
ものすごく。
⸻
「このオーブンなんだ」
⸻
「操作パネルが三十個ある」
⸻
「ピザ焼く気ある?」
⸻
「ないな」
⸻
⸻
だが。
⸻
生地を触った瞬間。
⸻
二人の表情が変わる。
⸻
職人の顔だった。
⸻
世界が終わる前。
⸻
何千枚も焼いた。
⸻
毎日。
⸻
朝から晩まで。
⸻
ピザを。
⸻
「ソース」
⸻
「任せて」
⸻
「チーズ」
⸻
「すごい香り」
⸻
「当然だ」
⸻
老人が割り込んでくる。
⸻
「黙れ」
⸻
ピザガイが追い払った。
⸻
⸻
調理は続く。
⸻
エリオットが生地を伸ばす。
⸻
ピザガイが焼き加減を確認する。
⸻
昔と同じ。
⸻
何も変わらない。
⸻
ルナティックも。
ゾンビも。
世界の終わりも。
⸻
この瞬間だけは関係なかった。
⸻
そして。
⸻
焼き上がる。
⸻
黄金色のピザ。
⸻
溶けるチーズ。
⸻
香ばしい香り。
⸻
老人の目が潤む。
⸻
「まさか……」
⸻
震える手で一切れを持つ。
⸻
食べる。
⸻
沈黙。
⸻
さらに一口。
⸻
もう一口。
⸻
そして。
⸻
老人は泣いた。
⸻
本当に泣いた。
⸻
「これだ……」
⸻
嗚咽。
⸻
「これがピザだ……!」
⸻
「大げさだな」
⸻
ピザガイが呟く。
⸻
「分かってない!」
⸻
老人が叫ぶ。
⸻
「5年ぶりだぞ!」
⸻
確かにそうだった。
⸻
終末世界でまともなピザなど存在しない。
⸻
まして最高級チーズ。
⸻
奇跡みたいなものだ。
⸻
⸻
その夜。
⸻
約束通り。
⸻
二人は大量の弾薬を受け取った。
⸻
さらに。
⸻
老人は巨大なチーズの塊を一つ渡してくる。
⸻
「持っていけ」
⸻
「いいの?」
⸻
「どうせ私一人では食い切れん」
⸻
⸻
エリオットは笑った。
⸻
「ありがとう」
⸻
老人は照れ臭そうに鼻を鳴らす。
⸻
⸻
シェルターを出る時。
⸻
エリオットがふと振り返った。
⸻
「また来てもいい?」
⸻
老人はしばらく黙る。
⸻
それから。
⸻
「次はマルゲリータだ」
⸻
⸻
エリオットが吹き出す。
⸻
ピザガイも少しだけ笑った。
⸻
そして二人は歩き出す。
⸻
大量の弾薬と。
⸻
世界最後かもしれない高級チーズを背負って。
⸻
終わった世界の道を。
⸻
少しだけ軽い足取りで。