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部屋の明かりをすべて落として、滉斗はスマホの画面を見つめていた。
操作はもう手慣れたもので、保存されたフォルダの奥深く、
鍵付きの非公開フォルダを開けば、そこに例の“映像”がある。
再生ボタンを押すと、無音から、少しずつ空気が立ち上がった。
──暗い控え室、赤く小さく光る録画ランプ。
画面の中に映っているのは、ソファに押し倒された元貴。
シャツを脱がされ、無防備な胸を晒しながら、険しい目でこちらを睨んでいる。
『やめろって、……滉斗』
再生されたその声に、滉斗の背中がゾクリと震えた。
「……ああ……やっぱ、やば……」
その声、その表情、その息遣い。
すべてが、滉斗の耳と目に、深く、直接流れ込んでくる。
布団の中、ズボンの中に手を滑り込ませながら、
画面の中で喘ぐ元貴に指先を合わせる。
音とタイミングを完璧にシンクロさせて、再びあの夜を“なぞる”。
「っ、く……元貴……その顔……たまんねぇ……」
画面の中の元貴が、滉斗の手で快楽に乱されていくたびに、
スマホを握る手にも力が入る。
苦しげに睨みつけていた目が、だんだんと潤み、
低く、喉の奥から絞り出すような声に変わっていく。
『……っ、滉斗……奥、やば……』
「うん、そう……もっと言って……もっと、出してよ」
画面に向かって囁きながら、滉斗は果てた。
びくん、と全身を震わせて白濁を手の中に受け止めながら、
そのまま息を整えずに、もう一度最初から。
(1回じゃ足りねぇ……何回見ても、全然……足りない)
1秒ごとに変わる表情、声のトーン、指の動き。
全部に意味がある。すべてが、滉斗にとっては“芸術”だった。
「……お前、ほんと綺麗だったよ……」
目を細めて、スマホの画面を撫でる。
自分の吐息が画面にうっすらと曇りを作って、それさえ愛おしかった。
⸻
一方その頃――
元貴は、風呂上がりの髪を乾かしながら、ソファでうつぶせに倒れていた。
(……最近、なんか……変だよな、滉斗)
思い返せば、控え室で抱き潰されたあの夜から、
滉斗の視線がどこか違っているように感じる。
前より執着が強くなったというか、
――いや、最初からどこか、おかしかったのかもしれない。
「……まあ、いいけど。」
元貴は独り言のようにそう呟いた。
あの夜のことは、確かに突然すぎてびっくりしたけど、
どこかで“求められること”に甘えていた自分がいた。
ただ、それでもひとつだけ――
(控え室の……あの位置。あれ、カメラ、回ってなかったか?)
ふとした疑念が、記憶の片隅に引っかかる。
角の観葉植物の後ろ。なぜか光っていたような、赤い何か――
「……まさか、な。」
笑ってごまかしてみたけれど、
その笑みはどこか引きつっていた。
⸻
夜の静けさの中、
滉斗の部屋には、今日も元貴の声が流れていた。
何度も、何度も。
再生されるたびに、滉斗の世界は完結する。
(俺のもんだ。あの声も、あの顔も、全部)
もっと長く。
もっと深く、録ってやりたい。
――元貴が気づく前に。