元貴は最近、よく夢を見た。
いや、夢というより……妙にリアルな“記憶のような映像”。
視線の先には、赤い点。
目線の高さ、部屋の隅、鉢植えの裏。
何かが“そこにあった”ような、奇妙な感覚が胸に残っていた。
(……あの日。滉斗と、控え室で――)
あれは確かに、甘くなかった。
ただの欲望だった。
口づけも、挿入も、すべて強引で――
だけど、あの時、元貴は「完全に拒まなかった」自分を覚えている。
それでも。
(録られてたら……話は別だ)
⸻
控え室に誰もいないのを見計らい、元貴は無言で扉を開けた。
数日前の記憶をなぞるように、視線を部屋の隅に向ける。
観葉植物。
葉の隙間。
コードの先端。
――カチ。
手に取ったのは、小型のカメラ。
電源は落とされていたが、メモリカードは差さったまま。
(……滉斗、お前……)
その瞬間、すべてが繋がった。
あの、背中がぞくりとしたような感覚。
滉斗の、あの視線。
何度も何度も、自分をなぞるように見てきたあの目。
全部、答えはここにあった。
⸻
帰宅後。
元貴は無言で自室のノートPCにカードを差し込んだ。
再生をクリックする。
映し出されたのは、見慣れた控え室。
そして次の瞬間、画面が歪む。
シャツをまくり上げられ、ソファに押し倒される自分。
滉斗の手に身体を晒され、喘ぎ、絶頂する自分。
(……うわ、マジで……)
一瞬、息が止まりそうになった。
すぐさまPCのフタを閉じ、顔を両手で覆う。
「はっ……最低だな、ほんとに」
でも、不思議と涙は出なかった。
心のどこかで、「そうだろうな」とわかっていたからかもしれない。
けれど、黙っているつもりもなかった。
これは――許されることじゃない。
⸻
翌日。
いつも通りのスタジオ、いつも通りの空気。
滉斗は先に来てギターの弦を張っていた。
元貴はゆっくりドアを閉めると、無言でイスに座る。
「おはよ、元貴」
「……ああ」
ほんの数秒の沈黙。
その空気に、滉斗は小さく目を細めた。
「……どうかした?」
「いや……なんもないよ」
笑った。
でも、その笑みには刃が仕込まれていた。
「さ、今日のアレンジ詰めようか」
滉斗は安心したように、軽く頷いた。
――だが、その日を境に、
元貴の視線は、滉斗を真っ直ぐ見ることがなくなった。
録られた声と身体。
信じていたものの裏側にあった“熱”。
その全てに、元貴は今、ゆっくりと静かに怒っていた。
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