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教室の時計が、放課後を知らせる音を小さく鳴らした。
今日は最後の予行練習が終わり、クラスの誰もが卒業モード。
机の上には、寄せ書きの色紙や手紙が広がっている。
私も片付けを終えて帰ろうとしたけれど、どうしても足が動かなかった。
——明日で、もう先生と同じ学校に通えなくなる。
廊下を歩く足音に振り返ると、ドアのところに先生が立っていた。
「まだ帰ってなかったのか」
「……はい」
それだけで、胸が詰まる。
「明日、泣くなよ」
軽口のつもりなのか、そう笑った先生の声が少し掠れているように聞こえた。
冗談で返せばいいのに、私の口は勝手に動く。
「……先生は、泣かないんですか」
「泣かない。泣いたら……止まらなくなりそうだから」
その一言が、ずるかった。
気づけば、足が勝手に動いていた。
距離を詰め、その胸に抱きつく。
「やだ……卒業、したくない」
声が震えて、スーツの胸元をぐしゃっと掴んでしまう。
一瞬、先生の手が私の背に触れ——すぐに離れた。
「……我慢しろ。俺だって、限界なんだから」
低く押し殺した声に、心臓が跳ねる。
「……明日、お前を見送れるように。今日だけは、これ以上近づくな」
そう言い残して、先生は私の肩をそっと押し、教室を出ていった。
残された私は、まだ先生の温もりが消えない腕を抱きしめたまま、
明日を想像して、胸が痛くて仕方なかった——。
第15話
ー完ー