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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第36話 〚沈黙を破る声〛(海翔)
教室に入った瞬間、
空気が、はっきりと止まった。
誰も声を出さない。
りあは一瞬だけ驚いた顔をして、すぐに笑みを貼り付けた。
澪は、何も言わずに席に座っていた。
机の上を見つめたまま、動かない。
——それが、限界だった。
「……さっきの」
海翔の声が、教室に落ちる。
自分でも驚くくらい、低くて、落ち着いていた。
「今の、聞こえてた」
りあが肩をすくめる。
「何が? ただの事実じゃない」
その瞬間、
海翔の中で、何かがはっきりと切れた。
「事実?」
海翔は、一歩前に出る。
「じゃあ聞くけどさ。
澪が、誰かに迷惑かけたことあった?」
教室の中が、さらに静かになる。
誰も答えない。
答えられる人が、いない。
「ないよな」
海翔は、続けた。
「静かだから?
目立たないから?
それで“下”になるなら——」
視線を、ぐるりとクラス全体に向ける。
「このクラス、
何人“上”に残るんだよ」
ざわ、と空気が揺れた。
りあの表情が、少し歪む。
「海翔、あんたには関係ないでしょ」
「ある」
即答だった。
「俺は、澪の隣に座ってる」
それだけで、十分だった。
「一緒に話して、
一緒に笑って、
一緒に過ごしてる」
海翔は、澪の方を一瞬だけ見る。
澪は、驚いたようにこちらを見ていた。
「だから分かる」
視線を、もう一度りあに戻す。
「澪は、誰かを見下したりしない。
陰で悪口も言わない。
それが“弱い”なら——」
少し、間を置く。
「俺は、その弱さの味方でいる」
教室の空気が、変わった。
誰かが、小さく息をのむ音がした。
りあは、何も言わない。
言えない。
海翔は、これ以上責めなかった。
ただ、最後に一言だけ、はっきりと言う。
「次に同じことしたら、
俺は“見るだけ”じゃいない」
それは、宣言だった。
海翔は席に戻る。
澪の隣。
澪は、まだ少し震えていた。
海翔は、小さな声で言う。
「……一人で耐えなくていい」
澪の指先が、ほんの少しだけ動いた。
その沈黙は、
もう“孤独”じゃなかった。
——守るって、
声を出すことなんだと、
海翔は初めて知った。
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