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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第37話 〚立場逆転の瞬間〛(えま・みさと・しおり・玲央)
海翔が席に戻ったあとも、
教室の空気は、重く張りついたままだった。
でも——
それを“見逃さなかった”人たちがいる。
えまは、澪の机の横を通り過ぎるふりをして、
小さく澪の手元を見た。
震えている。
それだけで、十分だった。
「……ねえ」
えまの声が、意外なほどはっきりと響く。
「さっきの、聞こえてたんだけど」
りあが、ピクリと反応する。
「なに?」
今度は、みさとが口を開いた。
「三軍とか、格とか、
そういう言い方さ——正直ダサい」
教室が、ざわつく。
しおりも、静かに続けた。
「それに、澪は何もしてないよね。
悪口言われる理由、どこにもない」
りあの表情が、明らかに固まった。
「は? あんたたち、澪の味方なわけ?」
その言葉に、玲央が前に出る。
「味方とかじゃない」
淡々と、でも強く。
「おかしいことを、おかしいって言ってるだけ」
一瞬、教室が凍った。
玲央は続ける。
「クラスで誰かを下に置いて安心するのって、
それもう“強い”じゃないだろ」
誰かが、小さく頷く。
別の誰かが、視線を逸らす。
りあは、笑おうとした。
でも、
その笑顔は、どこか歪んでいた。
「……みんな、澪に騙されてるだけ」
その瞬間。
「違う」
えまが、即座に言った。
「私たち、ちゃんと“見てる”」
「澪がどんな子か、
海翔がどんなふうに隣にいるか」
みさとが、きっぱりと言う。
「それを見て、ここにいる」
空気が、完全に変わった。
今まで、りあの方を見ていた視線が、
一つ、また一つと、離れていく。
誰も、りあに同調しない。
——それが、答えだった。
りあは、何も言えなくなった。
教室の中心にいたはずなのに、
いつの間にか、輪の外に立たされている。
澪は、恐る恐る顔を上げた。
えまが、にっと笑って言う。
「澪、席戻ろ」
しおりが頷く。
「一人じゃないから」
玲央は、海翔と目を合わせ、短く言った。
「守る輪、完成だな」
海翔は、小さく息を吐いた。
澪の隣で、静かに言う。
「……大丈夫だ」
澪の胸の奥で、
ずっと縮こまっていた何かが、
少しだけ、ほどけた。
その日、教室で起きたのは——
ただの言い合いじゃない。
立場が、
完全に、
ひっくり返った瞬間だった。