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桜兎🌸🐇 @🥐
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嗎伽(まか)
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#krptイラスト
まとちゃ_1126
8,479
土曜日の午前十時。どんよりとした雲が垂れ込める駅の改札前で、志穂は何度もスマートフォンの画面を確認していた。いつもの制服ではない、お気に入りのサマーニットにアースカラーのロングスカート。鏡の前で何度も髪型を直してきたせいで、家を出るのが少し早すぎてしまったのだ。
「志穂ーっ!」
人混みの向こうから、聞き馴染んだ明るい声が響く。
振り返ると、デニムのサロペットに白いTシャツを合わせた遥が、こちらに向かって小さく手を振りながら走ってくるところだった。
「はぁ、ごめん! 待たせちゃった?」
「ううん、私も今着たばかりだから大丈夫」
息を切らす遥を見て、志穂は一瞬、言葉を失ってしまった。
いつも結んでいる短い髪が今日はラフに下ろされていて、ジャージ姿の時には気づかなかった女の子らしい華奢な肩のラインが目を引く。
「……どうしたの? 私、変な格好かな」
遥が少し不安そうに自分の服を見つめる。
「ううん! 全然そんなことない。すごく、可愛い……」
「本当? よかったぁ。志穂こそ、いつもと雰囲気違って、大人っぽくて凄く綺麗。なんか、ドキドキしちゃうな」
屈託のない笑顔でストレートに褒められ、志穂の頬がカッと熱くなる。遥はそんな志穂の反応を楽しむように悪戯っぽく笑うと、「行こっか!」と歩き出した。
駅の外へ出ると、やっぱり梅雨の雨がアスファルトを濡らしていた。
志穂がカバンから、あの淡いネイビーの傘を取り出してパッと広げる。すると遥は、当然のようにその傘の下へと滑り込んできた。
「今日も半分こ、ね」
一歩、雨の街へと踏み出す。
第2話の帰り道よりも、私服のせいかお互いの体温が近くに感じられた。すれ違う人を避けるたび、肩と肩が優しく触れ合う。傘の内側にこもる、雨の匂いと、遥の髪から香るほのかなラベンダー。世界がすべて雨に遮られて、この傘の中だけが二人の特別な空間になったかのようだった。
十五分ほど歩き、目的地である市内の近代的な図書館に到着した。
今日は「図書フェスティバル」の当日。館内は色とりどりのポップや古本の出店、ミニライブの音で、いつも志穂が知っている静かな図書館とは違う、お祭りのような熱気に包まれていた。
「わあ、すごい! 本がたくさん!」
遥は目を輝かせてブースを巡る。志穂は自分の得意分野ということもあり、少し緊張が解け、お気に入りの作家やおすすめの小説について、少し熱を込めて語ってしまった。
「……あ、ごめんなさい。私ばっかり喋っちゃって、退屈だったよね」
途中で我に返り、慌てて口を紡いだ志穂に、遥は愛おしそうな視線を向けたまま首を振った。
「ううん。本を語ってる時の志穂、すごくキラキラしててかっこいい。私、そういう志穂をもっと知りたいんだ」
胸の奥がキュンと鳴る。遥の言葉は、いつも志穂の心の柔らかい場所にまっすぐ届いてしまう。
一通りブースを回った後、二人は館内の隅にあるお洒落なブックカフェに入った。
窓際の席からは、激しい雨に濡れる美しい中庭が見える。温かいココアを飲みながら、しばらく雨を眺めていた遥が、ふと、いつもの太陽のような笑顔を消して、ぽつりと呟いた。
「私ね、走るのをお休みする日は、なんだか自分が空っぽになっちゃったみたいで、いつも怖かったんだ」
ココアのカップを両手で包み込みながら、遥は寂しそうに微笑む。
「陸上部のエースとか、期待の星とか言われるたびに、走っていない私には価値がないんじゃないかって思えてきて。でもね……志穂といると、不思議と焦らないの。走っていなくても、ここにいる私を、そのまま受け止めてもらえる気がして」
クラスの誰もが憧れる遥の、初めて見る弱音だった。常に背負ってきたプレッシャーの重さと、志穂の隣にある「穏やかな時間」に救われていたという告白。
志穂は胸が締め付けられるような愛おしさを覚え、気がつけば、机の上に置かれた遥の手の上に、自分の手をそっと重ねていた。
「遥ちゃん」
遥が驚いたように顔を上げる。
「私は、グラウンドを全力で走っている遥ちゃんも、今ここで私とココアを飲んでいる遥ちゃんも……どっちの遥ちゃんも、本当に大好きだよ」
あ、と口から出てから気づいた。
友達として、という意味を装うには、少しだけ声が震えすぎていたかもしれない。
遥は濡れた紫陽花のような瞳でじっと志穂を見つめた。やがて、その瞳にじんわりと喜びが広がり、机の上の手をひっくり返して、志穂の手をぎゅっと握り返した。
「……うん。ありがとう、志穂」
遥の温かい手のひらから、言葉以上の何かが伝わってくる。
帰り道、再び一本の傘をひらいて街を歩く。
遥は繋いだ手に少しだけ力を込めると、雨の向こうを見つめたまま、小さく息を吸った。
「ねえ、志穂。来週、陸上部の大きな大会があるんだ」
「大会……?」
「うん。私、志穂の前でもう一度、全力で走りたい。……私のこと、特等席で見届けてくれないかな」
コメント
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第3話、読ませていただきました。雨の日が二人の特別な空間になる演出、本当に素敵でしたね。特に傘の中で肩が触れ合う距離感や、図書館で志穂さんが好きな本を語るシーン——あの「もっと知りたい」という遥さんの言葉に胸が熱くなりました。最後の大会の話、次はどんな展開になるんだろうと期待が高まります。お互いの気持ちがゆっくり近づいていく過程が丁寧で、この雰囲気がとても好きです。