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『顔合わせの件、伸び伸びになって申し訳ないですね。“9K”』
「いや、良いさ。“俺達”の忙しい時期は終わった筈なんだけどな、シックスは何やら随分と忙しそうだ。それも仕方ない」
その夜、シックスの“担当サポーター”と会話していた。
以前から話していた、顔合わせの件。
こっちとしては、弟の件もあったからこそ挨拶くらいはしておきたい、程度だったのだが。
『そちらもお疲れ様でした。随分と妹を助けてくれた様で』
「止めてくれ。むしろ……今回のイベント、シックスが居なかったら間違いなく黒星を上げていただろうよ」
賞金首のチームイベント、結局俺達の出番は5回。
その全てを終えて、勝敗の結果は“十二分”としか表現出来ないものだった。
初回、何とかギリギリ勝利だけを収めた時とは全く違う。
5戦中、4回勝利。
それはもちろんスコアの話であり、今回やられた賞金首の数は結構な事になっていたが。
残りは、一回だけ“引き分け”が発生した。
俺達のチームの誰もゴールに向かえず、しかし全滅はしない状態。
データを全て奪われた訳ではないので試合が続いた上で、参加者を端からを時間の限り殺して回ったというとんでもない事態が一回。
全体のスコアとして、5戦中一度も黒星を上げなかったんだぞ?
あまりにも不利過ぎる状況の中、俺達は全て勝利で飾った。
だというのに。
「随分“悔しそう”だったじゃないか……シックス」
『最近妹は、かなり入れ込んでましてね。“上手く出来ない”事に、自分で腹を立てているんですよ』
「ハハッ、なかなか負けず嫌いなヤツだな」
初期の一戦から、明らかにシックスの雰囲気が変わったのだ。
これまでは、それこそアイツも“プレイヤーらしい”一面があった。
アバターとは裏腹に、非常に臆病で。
更には周りの奴らが思っている様な“完璧さ”など持ち合わせていない女の子。
だった、はずなのだが。
「何があった? 今のプレイスタイルは、何と言うか……“ゲーム”をしている感じが、全くしない」
『妹の才能は、そこにありますから。シックスは“遊び”を止めました。アレはもう……妹自身なんですよね。キャラクターの死は、本人の死と同意義。妹は、そこまで“のめり込んで”6keyと向き合っています』
「……大丈夫か? ソレは。VRゲームでいう、裏表の逆転現象。アレは……冗談や何かでは済まないぞ」
『そこだけは大丈夫ですよ、妹はあくまでも“ロールプレイ”しているだけですから。リアルに戻れば、いつも通りの妹に戻ります。あくまでもシックスを演じている時は、彼そのものになり切っている様なモノです』
「器用なものだな……俺には無い才能だ、恐ろしいよ」
正直、ゾッとしたのだ。
今のシックスは……本当に、あの世界で生きているのではないかと思う程に、“生き足掻いた”のだ。
人間なんてものは、一日二日で実力が変わるものではない。
だが彼女は、シックスは間違いなく“何か”が変わった。
銃の扱いや、能力じゃない。
アイツは……俺達チームメンバーが全員やられようとも、たった一人でも生き残ったのだ。
回数をこなす度に対策され、相手が俺等に合わせた戦略で挑んで来る中。
俺達“ゲーマー”なら、間違いなく不可能だと言葉にする状況であっただろうに。
それでも、生き残ったのだ。
“勝利”という選択を捨て、奪われていない端末を隠し。
その後時間制限全てを使って、相手チームのほとんどを殺し尽くすという、とんでもない結果を残して。
これが、俺達のチームが残した“引き分け”の一回。
「まぁ、此方の用事なんてのは大した事は無い。事態が落ち着いてからで構わないさ」
『そう言っていただけるのなら幸いです。ウチの妹は、“ハマる”と長いですから』
モニターに映る相手は、どこか楽しそうに笑いながらそんな事を言い放って来た。
アイツも異常だが、こっちもなかなかだな。
兄妹揃って、“魅せて”くれるじゃないか。
この世には、俺なんかじゃ“理解出来ない”存在が居るんだって事を改めて理解する。
そういうヤツ等は、いろんな呼ばれ方をするが……そうだな。
俺の一番好きな呼び方で表すのなら。
「“天才”だよ、アンタ等は。間違いなく、あの世界においては。そして天才って奴は、同類としか分かち合えない」
『私はそんな大した者じゃありませんけどね、妹が別格過ぎるんです。とはいえ……あの子の最大の理解者は、私でありたいと思っています』
「シスコンめ……」
そんな会話をした後は、本当に普通の雑談程度。
俺のサポーターという訳では無いので、今後の予定を話し合う訳でもなし。
落ち着いたら改めて話を進めよう、的な流れで通話を終了してからヘッドセットを外した。
落ち着いたら、ねぇ?
あの類は、そうそう満足するモノでは無いだろうに。
ウチの弟も、厄介な相手に惚れたものだ。
なんて、思わず乾いた笑い声が零れてしまったが。
このタイミングで、コンコンッと扉をノックする音が聞えて来た。
振り返ってみれば……あぁ、クソ。
これは、やらかしたかもしれない。
「……兄貴、今のって」
「あぁ~えぇーと、そうだな……なんて言うか」
弟の現太が、“開かれた扉”をノックしながらこっちを見つめていた。
まっずい。
企業秘密である筈の“内側”を見られたのも、社会人として色々ヤバいけど。
それ以上に、あまり良くない形で秘密を知ってしまったのは確かだろう。
コイツはゲーム内で、あの子に“教えている”つもりだったはずだ。
この事実に間違いは無いのだが、傍から見ればどうだ?
相手の実態は自らよりも遥かに格上の存在、更には今回のイベントで俺等の様な“他の賞金首”とさえ違う何かがあると示して見せた程の実力者。
それくらいに、ガンサバイブオンラインにおいての“シックス”は異様な存在になってしまったのだ。
PV映像で主人公の様なポジションを飾ったアイツだったが、今やプレイヤーの憧れの存在というだけではなくなった。
今回の一件により、本当の意味で“恐怖の対象”として見られ始めているのだ。
ゲームに現れた、“本物”として。
「全部、辻褄があった気がするよ。そういう事だったんだね……」
「あーその、なんだ。アイツは、な? 別にお前を騙してたとか、そういう訳じゃ……」
グッと奥歯を噛みしめた様な表情の弟は、ゆっくりと部屋の中へと入って来てから。
そして、ポツリと呟いた。
「シックスの正体は……白川さんの、“お兄さん”だったんだね」
「…………うん?」
「もう誤魔化さなくて良いよ。大丈夫、誰にも言わないから。だって今モニターに映ってたの、間違いなく“お兄さん”だった。あの人に対して、兄貴は……“シックス”って」
あ、あぁぁ~……あぁ? うん、なるほど。
おぉ、なるほど! 俺さっきから、ヘッドセット付けたまま会話してたもんな!
俺の方の声しか聞こえないわな!?
つまり弟は、俺が賞金首同士で会話していると思った訳か。
んで、会話の流れ的に白川妹が~とか、彼女がどうとか~って言葉、多分使わなかったもんな!
なるほど、なるほどね!?
すげぇ、リアルでこういう勘違いって、本当に発生するんだ。
ドラマとか映画でしか見た事無いわ、こういうシーン。
え、つまり何?
今弟は、さっき会話していたシックスのサポーターが、本人だと思った訳だ。
なんだ、これ……なんだコレ!?
もしかして俺、今すげぇ面白い場面に遭遇してる!?
いやまぁ、想い人に対して云々の話にならなくて良かったのは確かなんだけど。
「白川さんがイベントに参加しない理由……これだったんだね。アレだけ彼女を大事にしてるお兄さんだもん、妹に銃を向けられる訳無いよね。そういう“ズル”を無くすために、白川さんはこういう時に絶対ログインしなかったんだ……」
そういう話になると、何かごめんな?
俺、めっちゃお前を撃ち抜いたわ。
余裕でヘッドショット決めちゃったわ。
俺が居なければ、お前は初回でたった一人のサバイバーになったかもしれないのにな。
すまん、俺の方が強かった。以上。
「それに……見たんだ、俺。スコープ越しだったけど、シックスが持ってたショットガン。間違いなく、俺が白川さんに勧めたモデルと同じだった。あのお兄さんの事だから……どうやって扱うのか、あんなイベント本番で見せてたって事なんだよね? だってそうじゃなきゃ、ハンドガンスタイルの賞金首がいきなりアレを持ち出すのはおかしいでしょ!?」
すまん、その勘違いめっちゃ面白いわ。
そうだよな、普通のプレイヤー側からしたら“シックス”は元からヤベェ奴だもんな。
当てられないから近付いてますとか、他の銃の使い方良く分かんないですとか泣き言は聞えないもんな。
そりゃもう縛りプレイでもやっているかの様子で、アレだけ強けりゃおっかない存在だわな。
アイツの怖さは、多分俺等とは違うベクトルだけど。
「俺、決めたよ。次のイベントで、絶対にシックスを“倒す”。ちゃんとこの手で、今回みたいなラッキーに頼らずに。俺が白川さんと仲良くするには、お兄さんの許可が必要だって思ってたけど……それ以上だったんだ。もっと強くならなくちゃ、絶対あの人は許してくれないと思う。だから……お願い! 俺に一からスナイパーを教えてください!」
なんだなんだ、何がどうなってんだ。
何やら弟が熱血系主人公みたいな事言い始めたが、向こうの兄貴も相当拗らせているのだけは分かった。
直接会った筈の弟からしても、こういう認識ってなると……シスコンがヤベェな、いや薄々感じてはいたが。
これはまた、色んな所のネタバラしがどんどん後回しになっていく気配しかないが……。
「はっきり言って、今のお前じゃ話にならない。二戦目からのシックスを見ただろう? アイツは本来、あれだけ強い“プロ”なんだよ」
「分かってる……けど!」
うひゃぁ、なにこれ楽しい。
ウチの弟、白川妹の事どれだけ好きなんだよ。
お兄ちゃんは嬉しいぞ? それだけ本気の青春が送れるってのは良い事だ。
そんでもって、ゲーム一つでこれだけ燃えてるのが……これまた、高校生らしいじゃないの。
「本気でやるって事なら……いいぞ、教えてやる。例えズルでも何でも、お前を“プロ”に一矢報いる事の出来るプレイヤーにしてやるよ。例えどんなスゲェ奴でも、相手は“人間”だ。だったら、勝てる可能性は0じゃない」
「あ、ありがとう兄貴! 俺、マジで頑張るから!」
という事で、弟はシックスに勝利する事を本気で目指すプレイヤーに進化した。
うははっ、オモロ。
でもコレが現実になった場合、シックス本人も……自分を殺す程の強いプレイヤーが、“彼女の為に強くなった”んだと知った時にはどういう反応を示すのか。
ついでに言うと、本人と勘違いされた白川兄がどんな顔を見せるのか。
これはまた、波乱万丈な予感がしますねぇ。
だってゲームだし、楽しんでナンボってなもんだ。
そんでもって、リアルの方では更に面白いモノが待っているのかもしれないと分かれば。
そりゃぁもう、見てみたいじゃない。
俺、そういうの大好きだし。
事実は小説よりも奇なり、ってのはまさにこういう事を言うのだろう。
いやぁ、面白くなって来たぞぉ?
コメント
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ああ、この話は面白かったですね。弟・現太の誤解の仕方が絶妙で、傍から見ると「確かにそう取れる」という絶妙なラインを突いてくるのが良い。しかもその誤解が彼を「本気で強くなる」という前向きな方向に動かしているから、なおさらややこしくて楽しい。 シックスこと白川妹のプレイスタイルの変化について、サポーターが「ロールプレイ」と明確に言っていたのも印象的でした。「遊びを止めた」「キャラの死=自分の死と同意義」という表現には少し背筋が冷えるものがあるけれど、あれはあれで一つの没入の形なんでしょうね。現実に戻れるからこそ成立する、危うくて美しいバランスだと思います。 それにしても、兄が弟に対して「プロに一矢報いるプレイヤーにしてやる」と言ったのは、ある種の愛情表現としてなかなか良い締めでした。この先の波乱が楽しみです。