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このエピソード、すごく印象的でした。octopus8の視点で「同じ匂いのする人間」を見つけた高揚感と、それを友達にしたいと願う不器用さが、とても生々しく描かれていて……彼女の「死にたくないから生きたい」という根源的な衝動と、現実世界での生きづらさをゲームに託す矛盾した心理構造に、設定考証として興味を惹かれました。笑顔の練習シーン、不細工と自覚しながらも必死に準備する感じが愛おしいですね。6keyが本当に彼女の「同類」なのか、今後の交流が楽しみです。
「フ、ウフフ……フフフフフ……」
今回のイベント映像を見返しながら、思わずおかしな笑い声が漏れてしまった。
私達のチームは、割と“普通”というか。
まぁ良かったんじゃないか? みたいな成績に収まってしまったのだが。
もう一つの“賞金首チーム”……とても、面白い事になっているではないか。
こっちが三勝二敗。
それでも皆、お疲れ様でしたー! みたいな。
凄く雰囲気の良い感じに終わってくれたので、私としては一安心だったのだが。
向こうのチームは、4勝1引き分け。
とんでもない成績を叩き出したからこそ、むしろ此方のチームが尻を叩かれた状態だと言えるのだろう。
だが、しかし。
「全然違う、空気そのものからして、“ゲーム”じゃない」
画面に映っているのは、苦戦の末にシックスだけ取り残されてしまった時の映像。
他のプレイヤーなら、というか賞金首の皆でさえ同じ感想を抱く事だろう。
あ、この状況じゃ無理だ……って。
でも仕事だから、私達の行動は映像に残されると知っているから。
どうにか健闘したという実績を残して、綺麗に散る。
仕事である以上、“手を抜いた”とバレるのは一番不味いから。
これだけの条件なら、向こうチームで9Kが最後の一人になった時だって状況的には似た雰囲気があるのだが。
けど、彼の時とは全く違う。
初戦は他のプレイヤーの多くが逮捕されるという、想定外の事態に陥ったからこそ9Kが“賭けた”だけ。
でも6keyの場合は……どう足掻いても勝ち筋など無い状況で、多くの敵に包囲された状況にも関わらず。
獣の如く、“生きる”事に執着している意思が伺えたのだ。
ゲーム内で死ねば、自分も死ぬ。
まるでそんな強迫観念に迫られているかのような、記録映像でも分かる程のビリビリとした殺気。
相も変わらぬ無表情の下に隠した、心の奥底から溢れ出す様な闘争心。
これを見て、私は……心の底から、“ホッとした”のだ。
「……私だけじゃない、私だけじゃなかった。ゲームの中でも、死ぬのが怖い。本気で、嘘偽りなく心からそう感じているプレイヤーは……私だけじゃ、無かった」
そんな事を口走りながらも、口元はどこまでも吊り上がっていく。
3勝2敗、だからこそ上出来。
普通はそうなのだ、傍からすればその通りなのだ。
これはゲームでも、リアルの“試合”だって同じ。
ちゃんと成果を残している、素晴らしい結果なのだと理解出来る。
けど……私にとっては。
あの世界で、何度も“死”を経験してしまっているのと同意義。
一回でも死ねば全てが終わる、そう感じてしまうからこそ“負ける”のが怖い。
リアルとVRを混合する危ない思考、そんな風に言われた事など数え切れない。
けど、だからこそ。
“死にたくない”からこそ、私は無様でも生き足掻く。
誰かに笑われようと、気味が悪いと罵られようと。
私はそういう感情と共に、ゲームと向き合って来た。
こんなに怖い思いをするのなら、ゲームなどやらなければ良いのに。
自分でもそう思うのだが……リアルの世界は、私にとってはもっと辛かったのだ。
生にしがみ付くあの感覚が、確かに“生きている”と私に教えてくれるのだ。
例え死ぬかもしれないと感じていても、現実に住む弱い私には“逃げ道”が必要だったから。
そんな事を続けている内VRに依存し、どこまでも逃げ続けた。
こんな私のプレイスタイルの噂を、どこからか聞きつけたのか。
私にも、“賞金首”としてのお声が掛かった。
最初は何かの冗談とか、ドッキリとか。
それこそ詐欺の類まで疑ったけど、そうじゃなかった。
こんな私でも、ガンサバイブオンラインの中では“特別”になれた。
じゃぁ次は、この世界で生き足掻こう。
辛い現実から目を背ける一時を、全てこのゲームに費やそう。
そしてこの世界で……ちゃんと“生きているのだ”と感じよう。
そう、思えたのだ。
逃げてばかりの私が、生きたいと願うからこそ自ら死地に向かう私が。
この人を、私と“同じ”であろう人物を。
どんなプレイヤーでも絶望を浮かべる様な、過酷な戦場の中で……見つけた。
「改名、私もしておいて良かった……担当さんに言われたから、とりあえずOKしたけど。全然喋ってない私が名前を変えても、誰も気にしないって思ってたけど。これで、話をするきっかけが出来た……」
フ、フヘヘ……みたいな、自分でも気持ち悪いと思う笑い声を零しつつ。
何度も何度もシックスの戦闘映像を見返した。
私にとってゲームっていうのは、ピンチになればなるほど本領が発揮できる場所。
死にたくないから、生きていたいから。
とても生物的な本能を曝け出せる、唯一の箱庭。
そこを生き残る為に、私はキャラクターを“演じる”事で強くなれる。
だから分かるのだ、こんな壊れた人間だからこそ。
映像に映っているシックスは……私と、“同類”なんだって。
「見つけた、見つけたぁ……私の理解者。友達になりたいな、二人で“分かる~”とか言いながら、感情を共有したいな。前の会議は盗み聞きしていた様な状態だったけど、私は何にも喋って無いけど。聞いている限り、シックスも女の子みたいだし。ヘ、ヘヘヘ……これは、ワンチャンあるかも……」
とか何とか呟きつつも、担当さんにメールを送った。
すると相手からは、とても事務的な返事が返って来たけど……でも、一応確認してくれるって言っていた。
向こうの担当さんと打ち合わせをして、許可が貰えたらお話する機会を作ってくれるそうだ。
だって皆と交流があった方が良いって、言ってたもんね。
そして今回、私から誰かに歩み寄ろうとしている状況だし。
私のサポーターも、きっと全力で協力してくれるはずだ。
とかなんとか、無駄に期待しながら一旦パソコンの前から離れ。
部屋に置いてある姿見の前に立って、笑顔の練習をしてみたのだが……。
「ぶ、不細工……相変わらず。シックスは、なんか可愛い声だったし。テンパってて、小動物っぽかったから、私がちゃんと会話をリードしないと……」
ブツブツと呟きながらも、ひたすらに笑顔の練習を繰り返していくのであった。
もしかしたら、リアルでも仲良くなれちゃったりするのかな。
実際賞金首は、現実での顔合わせだってやったみたいだし。
半分くらいの人数しか参加しなかったみたいだけど……当然私も、断わっちゃったけど。
前のリモート会議でも、シックスはカメラがついていなかった。
だからこそ、外見は知らない。
もしも“seven”みたいな、見るからに陽キャが来たら……なんて、不安な気持ちも湧き上がってくるが。
でもアレは、あの動きと雰囲気は。
間違い無く、私と同じであるという証明。
だからこそ、絶対に仲良くならないと。
「は、初めまして……“octopus8”、です。よろ、よろしくねぇ~……?」
鏡に映る女が、不気味で不器用な笑みを浮かべている。
……こ、これは、なんというか。
もう少し、練習が必要そうだ。
というのと。
「け、血色悪い! クマも酷い!? あばばばば……流石に今回のイベントで疲れすぎた、かな? 見た目ゾンビみたいになってるし、今日は早く寝ないと……あぁでも、誰かと会うならもう少し化粧の練習した方が良いのかな……そもそも、いい加減髪の毛を切れって話だし……」
部屋の中で一人。
バタバタと慌てながら、とりあえずお風呂に向かって血流を良くする事から始めてみた。
た、楽しみだなぁ……VRゲームで、私と同じ感じの人、初めて見つけたし。
きっと共有の話題があれば、凄く仲良くなれると思うんだ。
こんな話、他のプレイヤーにしたってドン引きされるだけだったけど。
きっとシックスなら、分かってくれる筈。
私の感情を、理解してくれる筈。
そんな事を思いながら浴びるシャワーは、何だかいつもより熱く感じるのであった。