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第3章 親友
パチリと目を開ける
そこは見知った天井
見知った間取り
そうだ。私はタイムスリップしたのだ
まさか本当に…、なんて今更思わない
タイムスリップできたのだ
それだけで私の心は安堵した
でも、本当だったなんて……
信じてはいなかった
だが、お婆さんの話は何故か信憑性があった
妙に納得できた
あの後、私はお婆さんとタイムスリップ後の注意事項など諸々を話した
そして、今現在に当たる
鏡の前、私の頬をつねってみる
「いたっ…」
頬は赤く腫れただけだった
……本当らしい
不気味さも感じたが、今の私にはそんなことより嬉しさのほうが強い
私は部屋を後にし、階段を降りる
[ご飯よ〜]
お母さんがキッチンに立って話しかけてきた
お母さん無視してごめんなさい
なんて、心の中で謝りながら朝食を口に含む
今度は丁寧に、きちんと話して
20〇〇年6月17日
…そう、今日この日から風花への虐めが始まった
何故かは知らない
…知りたくなかった
嫌な予感がしたから
そもそもそのことに関し、私は最近まで知らなかったのだ
原因が分かれば早いんだけどな……
心の中でそう呟いてみる
「いってきまーす、」
私は悩みを抱えながらいつもの道へ足を踏み出す
『あっ、おはよ、!』
「…っ……!」
風花だ、
風花だ……、!
元気な風花だ…!
その嬉しさのあまり抱きつきそうになったが、グッと堪えた
そのいつもと違う様子に風花は疑問に思っていたようだが、そのまま違う話題へ移行した
……この後から何故か虐めが始まるのに…
この先のことを知っているからこそ、どうにかできることもあるのだろう
だが、今の私にとっては辛いことでしかなかった
これから起こる未来を、
これから通る風花の茨道
全てを知っているからこそ、辛い
だが、今の私は原因が分からないから何も手立てがない
教室に着き、決意する
(よし、今日は風花のストーカーになる!)
ずっと一緒にいるということです⤴
そうと決まれば、実行あるのみ!
「風花〜!」
いつものように私は明るく声をかけた、つもりだった
風花は、少しキョトンとしていた
「?」
私は何が起こったか分からないのだが、風花が教えてくれた
『みゆ、体調悪い…?元気ない…?』
え……?
…そうかもしれない、私は現に一睡もしていない
それに、今後のことで頭がいっぱいなのだ
「あー…ちょっと、ね!最近寝不足でさ〜」
『あらら…、ちゃんと寝なよー?』
「うん!」
風花との他愛のない話がなにより私にとってこれ以上ないほどの喜びとなった
そう、私は貴方に…永遠に笑っていて欲しい
その願いが叶うのなら、代償はなんでもいい
だから、私がんばるね…、?
時が戻ったのは、約半年前
風花に残された時間はわずか6ヶ月
その間に私は__風花に対する虐めを無くす
理由を探し出し、解決する
大丈夫。私ならできる
そう、胸に問いかけて…
第4章 学校で
いつもとなんら代わりのないクラス
…前の私ならそう思っただろう
いや、そもそも何も疑問にすら思わなかったのかもしれない
だが、今クラス内を見渡すと、違和感がいくつかあった
いつもは穏やかな生徒の睨み顔
嫉妬や、妬みで染められた空気感
全てが違うものに見えた
背筋が凍るほどに、ゾッとした
これほどまでに恐怖するものなのか
……この恐怖と風花は闘い続けていたのか
そう実感するたび、私自身が憎くなった
席に着くと、いつもの友人が声をかけてきた
〚みゆ〜!おっはよ〜!〛
「おはよ〜!」
前の私は元気におはよう、と返していた
でも、今の私は知っている
この友達は……
風花をいずれ虐める奴らのうちの一人だ
だから、内心冷めた気持ちで見つめながらぺらぺらと動く友人の口元を見つめていた
何を喋っているのかは知らない
聞いているが、聞こえていないみたいだ
耳に音が通ってこない
まあ、いいだろう。風花以外の言葉なんて耳にしたくもない
そんなことよりも、まずどこから風花が虐められ始めるのか、調べなければいけない…
__昼休み
私は風花の後を付け、屋上へと続く階段を登っていた
これから何が起きるのか、私には容易に想像できた
嫌な予感だ
何もかも、本当に嫌な予感だ
吐き気がするほどに
この気持ちの悪い屋上の中、風花と私の友達3人ほどの声が聞こえた
内容を聞こうと、扉に耳をつけ、聞き耳を立てようとした、
その時
__ガンッ
鈍い音が鳴り響き、私が耳をつけていた扉に何かが横たわるような振動が伝わってきた
話し声は聞こえない
何を言っているのか聞こえない
すぐそこにいるのに
声をかけられない
言葉が出ない
心臓が脈打つ音だけが私の耳には響いていた
第5章 始まりはいつも_
昨日の、あの鈍い音が耳に残って消えない
消えて欲しいのに、響いて、ひびいて、
こびりつくように剥がれようとしない
あの音を、私は知っている
あの日、前の私が風花と帰っていた時に、少しだけ
赤くなっていた制服
あの時の私は何も気にしなかった
何かこぼしたのだろうかとか、様々な言い訳を考えて
見て見ぬふりをした
本心は気づいていたかもしれないのに
私の足が動かなかった
動けなかった
恐怖で、恐ろしくて
まるで、何かが肩を押さえつけて、動くなと言っているようだった
つまり、だ
あの鈍い音は……
そういうことなんだろう
考えたく、なかった
思いたくもなかった
知りたくもなかった
でも、今の私にできることをしなければ
最悪の形をこの世に残さぬように
知りたくなくても、思いたくなくても、経験したくなくても、
それでも私はやり遂げなければいけない
たとえ、それが己の身を滅ぼすような形になっても…
あれから数週間後
私にできることは少なく、見ているだけだった
だが、今日は違う
母が作ってくれたご飯を食べ、玄関へ向かう
こんなにも、朝がしんどいのは初めてだ
当然だろう、私は甘やかされてきた
苦しみを知らぬのだ
未熟で、生半可で、
どうしようもない小童なのだ
だけど、そんな小童にもできることはある
今、それを成し遂げなければいけない
校門の前、少し早めに着いてしまった
いや、早くしたのだ
今日、前の私は少し遅れてしまい、風花のピンチに駆けつけられなかった
大体いつもそうだ
いつも肝心な時にいない
馬鹿な私だ
だが、今日は違う
今日は成し遂げる
全て上手くいく、……全て、
失敗は許されない
この前のことを思い出し、腹が立つ
息を整え、冷静に、教室へ向かった
教室前、
……やはり予想通りだ
クラス中のみんなが風花をいじめている
一人の人間に対して何人で虐めているのだろうか
…醜い、本当に醜い
集団でしか行動できない
ほら、前の私にはできなかったシナリオだ
……君たちはどんな反応をするのかな?
怒りを手に込め、扉を空けた
__ガラッ
みんな目を丸くしてこちらを見ていた
そりゃそうだろう
いつもは風花が迎えに来てくれていたのだ
だから早く来ることはあり得ない
「…な、に…してる…の?」
戸惑ったように、演技し、威圧をかけた
風花みたく、うまくはできなかったけれど
中々じゃないかな?
〚なにって…、な、何も…?〛
見るからに焦っている
戸惑っている
この状況下でもしらばっくれるのか
さすが、到底普通の人間とは思えないな
「何もって…、じゃあなんで…」
「風花は泣いてんの…?」
〚ビクッ〛
ああ、本当に腹が立つ
この怒りをぶつけるように、首謀者達を睨見つける
怒っても、どれだけ怒りが消えようとも、増えていく
消えても、消えても、怒りがこみ上げる
まるで底なし沼のようだ
底のない怒りが、憎しみが
こみ上げて、口から出そうになる
が、自制した
……憎いのは、奴らもだが、私自身もだろう
気づけなかった、私もだろう
当然だ
だから、わかっている。大丈夫。
憎いなら、憎いなりに挽回する
それが私のモットーだ
首謀者達がぶるぶると震えている
……こんな怒りじゃない
風花の怒りはこんなものじゃない
……こんな痛みじゃない
風花の痛みはこんなものじゃない
……こんな恐ろしさじゃない
風花はもっと、もっと、恐ろしかっただろう
一人でずっと、ずっと
助けられなくて、助けてもらえなくて、
暗いところに一人で__
……想像しただけで、吐き気がするほどに、憎い
辛かったろう、苦しかったろう
……助けてやれなくてごめんって、何度も思うよ
どれだけごめんって、ごめんって、思っても
許してって願っても、返事なんか返ってこない
許してもらえるわけがない
でも、少しでも許してもらえるように……
怒りが消えない、この感情
やばい、と思ったときにはもう遅かった
『っ…!』
風花が一人教室を走り飛び出てしまった
何かしてしまっただろうか…?
また失敗したのか…?
……本当に私は何もできないな、
また…風花は、死ぬのか…?
嫌だ、嫌だ……っ…!
【それって結局自分の気持ちだけじゃない】
【嫌だ、嫌だって、駄々こねて】
【風花の気持ちは?】
【私は何がしたいの?】
【私に何ができるの?】
【私は何を思うの?】
__わからない
わからないんだよ、私
なにがしたいのか
何ができるのか
何を思うのか
わからない、わからないんだよ
…だからさ、わからないなりにやることを決めるよ
まずは、風花を助ける
自分の気持ちを見つけて
風花の気持ちも全部見つけて
行動して、全て解決させて
風花と二人で平和に暮らすんだ__
自問自答をする私だったが、冷静に戻り
風花を追う
ねえ、風花
私、やれることわかったかもしれない
私、風花の口代わりになるよ
風花が言いたくても言えなかった気持ちを
辛さを、苦しさを、痛みを、助けてという気持ちを
全て、すべて、伝えるよ
ねぇ、だから、待ってよ
先に行かないでっ…
置いていかないで……
まだ…側にいてよっ…__
【】=美百合の心の声
〚〛=女子生徒(首謀者達)
次回第6章:知られたくなかった
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