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「こんぺこ!こんぺこ!こんぺこー!!ホロライブ3期生の兎田ぺこらぺこ〜!」
「ん〜〜〜ヴィヴィー!いつもキラキラな綺々羅々ヴィヴィです!」
配信が始まり、今日の企画をぺこらが説明していれば、ヴィヴィはそんなぺこらに1歩ずつ距離を詰める。
「……って、近い近い近い!おめー距離バグってんだろ!」
「ええやん!」
画面の向こうでは、コメントが勢いよく流れていく。
運営企画の3D配信。
最近ぺこヴィヴィでの企画が増えていて、こういうやり取りももう慣れてきた。
ヴィヴィは、ぺこらの事が好きで尊敬しているし、ぺこら先輩からも好かれている自信があった。
それにファンからも、もっと絡みがみたい、あのぺこらにこんなに近づけるのはヴィヴィだけ、もっとしてくれ、ぺこヴィヴィは見てて飽きない。
沢山の反応がついて、また二人での企画が増える。だからまた、ぺこら先輩へ近づく。
「ぺこらせんぱーいっ」
そう言って後ろから抱きつく。
「ひゃ!?やめてーー!」
「なんでよーー!笑」
「おめー!近いんだよ!はやく離せ!」
今日もぺこら先輩との配信。
チラッとコメントを見れば、流れはさっきより速くなる。
もっと、皆の期待に応える為に、ぺこら先輩に近づけるだろうか。
いつもなら笑って、すぐ離れて、ぺこら先輩に文字だけ見れば火力の高い言葉が、優しさと笑いに包まれて、プロレスとしてヴィヴィに届く。
それに言い返すのが流れだ。
「いややー!いつまでも逃げてばっかりやん!ぺこら先輩!今日は離さへんでー!」
だけど、今日は、離さない。
運営さんの期待に、ファンの期待に、応えるために。
もっと、ぺこら先輩に近づきたい。
いつもと違うヴィヴィの様子にぺこらは驚いた様子を見せる。
「いやお前が近すぎるだけだろ!!普通そんなほいほいボディタッチしないんだよ!!……そういうの、ノリでやるなって言ってんだろ!」
初めてヴィヴィの腕をぺこらが掴んで引き剥がそうとし始める。
でも声色は、変わらないまま。ただのプロレス。配信を見ているだけだとそう取れる。
だから、ヴィヴィも冗談なのか、本気なのか判断しかねた。
後ろから抱きついているから、ぺこら先輩の表情は見えない。
「というか!はやく!離せ!ヴィヴィ!」
ヴィヴィが返事をする前に、ぺこらは今日一声を荒らげて叫ぶ。
身体を強くバタバタと動かし、ヴィヴィの腕を掴む力も増した。
「もー、しゃーないな〜!」
口では、余裕があるような返事をする。
だけど今まで聞いた事のないぺこら先輩の拒みに、心臓はバクバクと心拍をあげ、やってしまった、という罪悪感と後悔と不安がぐちゃぐちゃに混ざってぐるぐると思考を埋め尽くす。
(“ぺこヴィヴィ”ばっかり見て、いちばん大切なぺこら先輩を見てへんかった)
視線を泳がせていれば、コメント欄を写しているモニターが目に入る。
(あかん、今は配信中や)
「いつになったらぺこら先輩に満足に抱きつける日が来るんやろな〜?みんな〜」
カメラに向かって笑って、みんなに問いかけることでコメントを返事で埋める。
配信を初めて1年、まだまだ分からないことも間違えることもあるけど、ぺこら先輩から学んだ配信者としての配信技術。
そうすれば距離をとって、こちらに背を向けてしゃがみこんでいたぺこら先輩がこちらへ振り向く。
顔は赤く染まり、目からは今にも零れそうな涙が溜まっていた。
だけどぺこら先輩は、目を腕で擦り、変わらずのテンションでヴィヴィの言葉に突っ込む。
笑ってるのに、目だけ笑ってない。
ヴィヴィは、ぺこらに十分な距離を取りながらその後の配信を続け、一度もぺこらに触れずに配信を終了した。
でも距離のことばかり気にしすぎてぺこらの言葉を拾えなかったり、流してしまったり、ミスの連発だった。
「じゃ、せーの」
「「おつぺこヴィヴィ〜!!」」
「おつかれ〜」
パソコンの操作をして、配信を切ったぺこら先輩が振り向く。さきほどより小さく、低い声。
「ごめんなさい」
ヴィヴィは何よりも先にその言葉を発する。
「…別に、気にしてないよ」
「そんな訳ないやん。」
少し沈黙の後、優しく返ってきたその台詞を食い気味に否定する。
だって、初めて聞いた声。初めて腕を掴まれた。
初めて、見た、涙。
「本当にごめんなさい。ぺこら先輩嫌がってたのに、ヴィヴィ全然離さへんかった。」
「うん」
「ヴィヴィ…わたし、最近ぺこヴィヴィの企画増えてきて…もっと、頑張らないとって…っ、期待に応えないとって…っ、自分のことばっかで…泣」
「うん」
「いちばん大切なぺこら先輩のこと…、考えれて無かった…っ泣」
1回言い出したら溢れて止まらない。
泣きたいのは、ぺこら先輩のはずなのに。
ヴィヴィが泣いていいはずないのに、また迷惑かけてしまう、愛想つかされてしまう。
もうコラボ誘ってくれないかもしれない。
2人でのお仕事、断られてしまうかもしれない。もうヴィヴィに笑ってくれないかもしれない。
そんなの、嫌や。
だからお願い、ぺこら先輩
「嫌いに、ならへんで……泣」
「ならないよ。」
すぐに降ってきたその言葉は、ぺこら先輩の暖かさが伴った。
ぺこらは、ヴィヴィの前まで歩いてきたと思えば、少しだけその場で留まる。何か言いかけて、やめる。
少しの沈黙の後、小さな息を吐いた。
それと同時に、優しく包むようにヴィヴィを抱きしめた。
ヴィヴィの腰にまわされた細い腕。
肺をいっぱい満たす普段はしないぺこら先輩の匂い。
ヴィヴィは何が起こっているか、理解するまで時間がかかる。
理解して、恐る恐る、自分の腕もぺこらにまわして、肩に顔を埋める。
ぺこらはそんなヴィヴィの頭を優しい手つきで撫でる。
「よしよし、手のかかる後輩ぺこな」
「…嫌いにならへんで」
「ならないて笑」
直ぐに返ってきた言葉は軽くて、いつも通り。
本当に何とも思っていないみたい。
「ほらヴィヴィちゃん。次の企画の話進めないと」
そう言って離れるぺこら先輩。
本当はもう少し、くっついていたかったけど、それはぺこら先輩との距離感じゃないから。
伸ばしかけた手をゆっくり下ろす。
「つぎ、なんの企画でしたっけ」
ぺこら先輩との間に空いた1人分の距離。
それは、拒絶でも、不安でもない。2人にとって、いちばん心地いい距離だから。
#百合
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