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#百合
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「…なんだよ」
放課後。
とっくのとうに、クラスメイト達は帰っていて。
窓の外はオレンジ色に染まりかけ、どこからか部活動生の声が聞こえる。
窓側の席、そこに座る兎田ぺこら。
そのぺこらの斜め後ろの席、そこがあたし、宝鐘マリンの席だ。
紙に滑らせていたペンを持ち上げたまま、軽く体を捻ってこちらに振り向く。
その額には少し汗をかいていた。
何も答えずにいれば、二人の間に風が通る。
ぺこらの髪が持ち上がって、靡く。
「…好きだなぁ」
「…は?」
「あ、ちが!あの!そう!ほら最近やっと涼しくなってきたじゃん?秋!秋好きだなあって…」
オレンジの空に、真面目な顔してペンを滑らせるぺこらをかっこいいな。なんて見つめて。
それに気づかれて振り返った姿に、いつも通りのぺこらが愛おしくて。
風に靡かれた姿が、可愛くて。
思わず、毎日じわじわと貯まった好きが零れた。
焦りながらみえみえな嘘をツラツラと並べるあたしに、ぺこらは呆れたように小さく息を吐いた。ペンを置いて、伸びをする。
何も聞かなかった。と言いたげな行為。
その小さな行為ですら、今のマリンには綺麗に映って、目が離せない。
「見すぎぺこだろ」
夕日のせいか赤く染った頬のぺこらが、丸い眉毛をジッと真ん中に集めて、ジト目をこちらへ向ける。
思わず視線を逸らしてしまう。オレンジに染まりかけた空は、多分、マリンの頬も赤くしてしまっているから。
「だって、しょうがないじゃん」
「しょうがなくないぺこ」
「ぺこちゃん、可愛いんだもん」
「はぁ」
“可愛い”そう伝えた答えは、いつも通り。
否定でも、肯定でも無いようなそんな、応え。
マリンからの可愛いなんてもう慣れてるだろうから。マリンもその応えをするぺこらに慣れている。だから、それ以外の反応をされても困るけども。
さっきの好きも、無かったことになっている。
嬉しいようで、寂しい。
でも多分、焦ったあたしを見つめて、そうするのがいい。というぺこらなりの優しさだから。
「マリン」
「んー?」
「アイス食べたくね?」
「食べたい~」
いつも通りの話題を振ってくるぺこらに、いつも通りに返す。
ぺこらの事は見れないまま。手を動かすけど、目の前の紙の白は埋まらない。
「よし。じゃあ今日はこれで終わりぺこ」
「え?でもこれ今日までだって…」
「でももうこんな時間ぺこよ?謝れば明日でも怒られないって。」
悪魔の囁きをしてくるぺこらにおもわず視線を向ければ、迷っているマリンに、ぺこらは、ね?って笑うから、マリンはその囁きを受け入れてしまう他なかった。
まだ終わっていない書類をまとめて、机の中につっこむ。まだ終わっていないけれど、持って帰ってする気にもならない。
それに、ぺこらがそうしていたから。気づけば、マリンも同じように机に押し込んでいた。
マリンよりも先に、帰る準備を爆速で終えたぺこらは、席から立ってこちらをみる。
でも急かすような目じゃない。優しくて、ゆっくりでいいって言ってくれているような、そんな視線。
小さい頃から一緒にいるからなのか、何となくぺこらの視線の意味はわかる。
人と絡むのが苦手なぺこらが、クラスメイトに絡まれた時に送られてくる、たすけろという視線。
期間限定のゲームのポスターを見て、名前を呼びながら、買うから一緒にやろうと送ってくる視線。
そんなことを考えていたら、ぺこらの視線はこちらから外れて、窓の先へと注がれている。
よし。と小さく声に出して準備し終えたら、それを確認したぺこらが遅いぺこなんて零す。扉へ進みながら、ぺこちゃんが早いだけと笑って返す。
扉へ手を伸ばしながら、後ろの視線に気づいて固まる。
「…ぺこら?」
言葉はない。けれど、視線がある。
何か言いたげな、伝えたい事がある時の視線。
「どうした?」
「……いや、今そこで」
手を下ろして、振り返れば、
窓の先をチラ見して、再びこちらへ視線を戻す。
「……告白?」
この教室の窓の端の方から見える、この学校の告白スポット。
特にこれといった物は何も無い少しした空間。どこの棟からも遠くて、人が寄り付かない。
だけど、何故かそこで付き合うと長続きするとか、永遠に結ばれるだとか、根も葉もない噂がこの学校にはまわっているからたまに見るその光景は珍しくない。
「さっき、マリンぺこーらに好きって言ったぺこよな?」
マリンもぺこらの隣へ移動する。少しだけ覗いた窓の先にはもう誰もいない。
そのタイミングで、何故か掘り返されてしまうマリンの告白。
「…え」
「言ったよな?」
ぺこらが一歩、近づいてくる。
逃げ場なんてないみたいに、視線が絡みつく。
その視線から逃れたくて、マリンは顔を逸らした。
「……いい、ました」
やっと絞り出した声は、自分でも驚くくらい小さかった。
「なら、なるぺこか?」
「……は?」
「恋人」
遠くから聞こえる部活動生の声が、やけに大きく響いた。
…間違いじゃないかと思った。
でも、嫌だと思うほどささるぺこらの視線は、冗談言ってる視線じゃなかった。
「……ぺこらは、好きなの?マリンのこと」
「う〜ん」
「好きじゃねぇじゃねえか!!」
少しだけ視線を逸らして、考えるように唸るぺこらに、思わず視線を戻してつっこむ。
そうしたらば、にやりと笑った甘い視線が絡みつく。
それと同時に、また1歩進んでくるから、マリンも1歩後退る。
背中に当たる机の感触で、もう逃げ場がないことを知る。
「…っ」
逃げたいのに、目が逸らせない。
────なんで、そんな視線向けてくるの?
自分は言葉にしないくせに。
視線だけで、伝えてくんな
そんな甘い視線むけられたら、分かりたくなくても、
「マリンは、好きなんでしょ?」
「……好きだけど」
「うん。……なら、それでいいぺこだよ」
少しの間の後、ぺこらの手が机に置かれて、すぐそこに居る。
触れてもいないのに、あつい。
このままぺこらに流されちゃ、良くないって、ちゃんとわかってるのに。
どうしてか、目を逸らすこともできない。
「よろしくね、マリン」
楽しそうな声。
喉が乾いて、声が出ないまま。数秒流れた。
「じゃあ、早くアイス買いに行くぺこ」
何も言えないでいれば、パッと手を離して扉へ手をかけるぺこら。
置いていかれないように、マリンも慌てて追いかける。隣に並べば、手を繋がれて、指が絡み合う。
目を合わせられない。
受け入れちゃいけないのに。
それでも、ぺこらの視線が離れない。
好きとか、言葉にしないくせに。
何も言ってくれないくせに。
────わかってしまう。
今まで見てきたどの視線よりも、ずっと強くて、ずっと近くて。
「……ぺこら、こっち見すぎ」
こんなの、ずるい。ちゃんと、好きって言ってくれないのに。ぺこらからの視線は好きが溢れていて。
「さっき、マリンもぺこーらのことめっちゃ見てたぺこじゃん」
好きって、言われていないのに。
それでもいいって、思ってしまいそうになる。
だって、ぺこらにあんな視線で見られたら、抗えるわけないから。