テラーノベル
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__しゃがみこんで、泣きながら考えた。あの歌はだれが歌っていたんだろう?ひとしきり泣いた後、もうあの歌は聞こえてこず、少し霞んだ視界に、中央の木が揺れているのを見ただけだった。
今思うと、雅さんに対して失礼だったと思う。いくらその場で泣き出しそうだったからって、あんなに丁寧に案内をしてくれたのに。
でも、どうしても気になってしまう。あの歌声はだれだったのか。男の子の声、だった気がする。優しくて、寄り添うような声だった。…泣き声、聞こえてないといいな。
それから私は、雅さんが居るという診療室に行くことにした。どうも罪悪感が膨れ上がって、謝らないといけないような気がしたからだ。
だが__
泣きそうなのを必死に抑えながら走っていたので、どこからどうきたのか、わからなかった。
「あれ…これどうしよ…、バカだなあ私…」
誰も居るはずのない所で、私の中の柚芽が呟く。今の柚芽は無口であまり喋らず、おとなしい性格のはずなのに。、すと、すと、すと、と雅さんとは少し違う、軽い足音が聞こえてきた。一瞬で今の柚芽を引き上げる。…演じろ。
「あれ…?君、こんなところにどうしたの?ここはあまり人が来るとこじゃ…」
静かに振り返る。音を立てずに。すると、親切な相手は、その立ち振る舞いに圧倒され__
「え、君っ大丈夫⁉︎目真っ赤じゃ…!あっごめん、そっとしてほしい感じ?えっとでもな…ここじゃ迷子になっちゃうし…」
「………、?」
混乱した。(あれ…?想像と全く違う…これは話すしかなさそう…?)自分が今まで泣いていたことを忘れていた。それに反応する相手のことも不思議に思った。
「…えっと、私、迷っちゃって、その、診療室に行きたくて。場所、教えてくださいません、か…?」
しどろもどろになりながらも、なんとか相手に問う。するとその子は、うん、うん、と大きく頷く。この不思議な時間が、優しいその子との出会いだった。
「目、痛くない?大丈夫?」
…
「この道はね、みんな怖がってなかなか通らないの。草がたくさん生えてるから、虫もいっぱい居るだろうって。そんなことないのにねぇ」
…
「私、灯鷹亜海。15で、ここの寮の9006に住ませてもらってるんだ!よろしくね!」
…
その『灯鷹亜海』と名乗るその子は明るくて、会ったばかりの私のことを、よく気にかけてくれる優しい子だった。広場に出ると、日が昇り切った後だからか、さっきよりもたくさんの子供たちで賑わっていた。駆けてくる子に離されないように、手も繋いでくれていた。自分も名前を名乗ると、嬉しそうに、鈴を揺らすように笑ってくれた。
「ここが診療室だよ、柚芽ちゃん!」
そう言われ顔を上げると、そこには診療室とは思えない程、神秘的な建物があった。白く塗られた壁に、天井からの光が屋根を創り、蝶の道が光を受け、チラチラと輝いている。その中の部屋に、雅さんがいた。
「あれ?亜海ちゃんと柚芽ちゃん?2人でなんて、どうしたのかな」
ここに相応しい、陽の光のように笑うその人に、謝りに来たなんて、喉が締まってうまく言えない。
「その…すみませんでした。あんなに丁寧に案内してくれてたのに、急に用事があるとか言って、走り出しちゃって…すみません。」
言葉をうまく繋ぎきれたと思ったら、きょとんとした顔で見つめてる雅さんと目が合い、驚いているであろう亜海さんの視線も感じた。瞬間、「ふふふ」と「あはは」が同時に聞こえた。
「柚芽ちゃん。私はここの医療医だよ?急に胸がいっぱいになっちゃって、駆け出したい時もあるし、泣なくなっちゃう気持ちも、よく知ってる。そんな子供たちも、たくさん診てきたから。それは心のケアに、整理に必要なことだから、謝らなくていいんだよ。でも、ここまできてくれて、ありがとう。」
「そうだよ、柚芽ちゃん。私、びっくりしたけど、あそこで泣いちゃってたのは、きっと柚芽ちゃんの心が、いっぱいいっぱいになってたんだね。でも、それでも、今は私と話してくれて、名前を教えてくれて、嬉しい。」
……。
……あぁ。なんでだろう?なんでここは、こんなにも優しいんだろう。あの寄り添うような歌声も、この人たちも。いったい何回、どれくらい泣かせれば気が済むのだろう。あと何回、あの家を重ねれば済むのだろう。心安らいだ、大好きな人たちのいるあの家と、この場所を……
コメント
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亜海ちゃん、!!! 新しいキャラだぁ~っ!! 優しい子は好きだよ。