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早朝、徐々に外に活気が出始める頃に、目が覚める。
カーテンを開けると、気持ちの良い日差しが、体に朝を教えてくれる。
裏庭にある井戸から水をくみ、顔を洗う。
そして髪を後ろで結いながら、1階の食堂に顔を出すと、女将さんから声をかけられる。
「おっ、早起きだね。もうちょっと待っててくんな、焼きたてが食えるよ」
「焼きたて……」
今日もカウンターに座る。
なぜならここが一番良い香りがしてくるから。
夕食どころか、朝食も期待できそうだ。
(あとはお風呂があれば最高だったのに)
もっと高い宿ならあるのかな?
「はいお待たせ」
カウンターに朝食が出てくる。
(これは……ガレットかな? 黒い飲み物はコーヒー?)
小鉢のような小さな容器に、ミルクも入っている。
ブラック派ではないので、ミルクは全部入れて飲んでみた。
……コーヒーっぽい何かだね。
これは…うん……いいや。
気を取り直してガレットを口へ運ぶ。
「――ッ!」
ザクザクとした心地よい食感、じゃがいもとチーズの奏でる二重奏に舌は踊り――――
「ま、美味そうに食ってくれるから別にいいけどね」
女将さんにあきれられた。
まただらしない顔になっていたらしい。
◇ ◇ ◇ ◇
「ここが冒険者ギルドかぁ……」
街の中心近くにあり、人通りも多い。
大きな大剣を持つ者、身軽そうな格好をした者、ローブに身を包む者、きっと皆冒険者なのだ。
まず登録をするために受付へ向かう。
「あのー、冒険者登録ってここでいいんですよね?」
「はい、登録料は青銅貨1枚になります」
知的な雰囲気のある受付嬢に、銀貨を1枚渡し、青銅貨9枚が返ってくる。
「それでは、こちらにお名前と年齢、それと職業をお書きください。文字が書けないなら代筆もいたしますが……」
「文字は書けますんで、大丈夫です」
エルリット、15歳……職業?
今現在でいうなら無職? ……いや、魔法使いって書けばいいのかな。
「あっ、魔法使いなんですね、魔法学校の卒業生……だと若すぎですよね。誰かのお弟子さんとかですか?」
「はい、師匠に――――」
そこでハッと気づいてしまった。
(師匠の名前……知らん)
ずっと師匠って呼んでたし、今までそれで困ったことがなかったので、気にもしていなかった。
だって師匠は師匠だもの。
「……? どうかしました?」
「いえ、なんでも……」
「それではこちらが冒険者カードになります」
木製の札を渡される。
そこには名前と冒険者ランクが記載されている。
「身分証としても使えるので、なくさないようにしてくださいね。再発行にもお金かかりますので」
「なんか……ショボ」
「最初は皆そんなものですよ、一番下のFランクからになります」
受付嬢さんの解説が始まる。
要約するとこうだ。
冒険者ランクはA、B、C、D、E、Fランクと別れており、依頼の達成状況に応じてランクアップが認められる。
その辺りの情報は、常にギルド間でやりとりが行われてるそうだ。
そして、ランクに応じて冒険者カードも変わる。
Aは金。
B、Cは銀。
D、Eは鉄。
Fは木製の仮登録のようなものだそうだ。
「あと新人にはあまり関係はないですけど、Aランクの上にSランク冒険者なんて方もいますよ。私も基準はよくわかりませんが、よほどのことがないとなれないそうです」
「へー、どんな人がいるんですか?」
「私も名前しか知りませんけど――――」
-剣神- ヤマト
-武神- オルトロ
-蒼天- ジェイク
-戦女神- ヴィクトリア
-星天の魔女- ルーン
-神殺し- ユーリ
-冒険王- ロイド
「――――の7人しかこの世界にはいません」
なんだか日本人みたいな名前もあるような……気のせいだよね。
「Sランクになるとすごいですよぉ、もう何もかもが別格って感じで、何事にも縛られない存在ですね。その昔、星天の魔女様を怒らせて、王様が土下座したなんて話もあるぐらい別格です」
師匠以外にも、魔女なんて呼ばれてる人がいるのかぁ……師匠じゃないよね?
「ていうかその二つ名みたいなのってなんですか?」
「なんですかと言われましても、その通り二つ名ですよ。いつの間にかそう呼ばれてたりするものです」
なにそれ恥ずかしい。
「まぁ、たまにたいしたことないのに、二つ名を自称するような人もいますけどね」
なにそれもっと恥ずかしい。
「ランクに関する説明は以上です、次に依頼に関してですが――――」
依頼には3種類あるそうな。
-受注型-
受付を通さないと受注できない依頼。
主に討伐や護衛、運搬等。
-常駐型-
受付を通さなくていい依頼。
主に採取等。
-指名型-
指名された者のみ受注できる依頼。
「どれも達成証明品が必要ですので気を付けてくださいね。あと各ギルドで素材の買取もしてますよ。魔物の死体も、解体料金を差し引きますけど買い取ってます」
解体かぁ……できる気がしないな。
「でもFランクは採取系の依頼しかないので、まずは地道にEランクを目指してくださいね」
「はい、ありがとうございます」
常駐型の採取の依頼しか受けられないそうなので、掲示板で依頼内容の確認だけして冒険者ギルドを後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
「どうしてこうなった」
冒険者ギルドを出たときは、銀貨が7枚、青銅貨が9枚あった。
30分後には、銀貨3枚と青銅貨1枚になってしまっていた。
「い、いや……これはきっと必要経費だったんだよ、うん」
腰のベルトにナイフが一本。これが銀貨1枚と青銅貨4枚
フード付きの黒いローブ。これが銀貨3枚と青銅貨4枚
魔法があるとはいえ、ナイフぐらいはあったほうがいい。これはしょうがない。
魔法使いだからそれっぽいローブがほしい。これもしょうがない。
「そう、しょうがないんだ……あっ、肉串焼き2本ください」
おっと、屋台があったのでつい。
「あいよ、銅貨6枚ね」
青銅貨を1枚渡して、銅貨が4枚返ってくる。
(安いだけあって薄味だな……って違うし! お金を使うことで市場価値を学んでるだけだし!)
……成長期なんで、許してください。
◇ ◇ ◇ ◇
参考までに
銅貨10枚=青銅貨1枚
青銅貨10枚=銀貨1枚
銀貨10枚=金貨1枚
金貨10枚=白金貨1枚