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数日後――。
「本日、九条家のご子息がお見えになります」
朝食中、蒼真が静かに告げた。
藍琉は紅茶のカップを持ったまま固まる。
「……今日?」
「はい」
「聞いてない」
「昨日お伝えしようとしましたが、お嬢様がお休みになられておりました」
「……そう」
胸が重い。
会いたくない。
でも逃げられない。
(最悪……)
「お召し物はどうなさいますか?」
「なんでもいい」
珍しく投げやりだった。
蒼真は少しだけ考え、
「白のワンピースがよろしいかと」
「……なんで」
「お嬢様に最もお似合いです」
その言葉に胸が少しだけ痛む。
(どうしてそんな普通なのよ……)
―――――
午後。
応接室。
扉が開く。
入ってきたのは――。
長身で整った顔立ちの青年だった。
黒髪に落ち着いた雰囲気。
いかにも名家の御曹司という空気。
「初めまして。九条玲司です」
優雅に微笑む。
藍琉は無表情で言う。
「……藍琉よ」
空気が少し張り詰める。
父は満足そうだった。
「二人で話してきなさい」
「は?」
勝手に決められ、庭へ。
沈黙。
先に口を開いたのは玲司だった。
「嫌そうだね」
「え?」
「婚約」
藍琉は驚く。
「……別に」
「嘘だ」
即答だった。
玲司は少し笑う。
「好きな人いるでしょ」
心臓が止まりそうになる。
「……な、なに言って」
「さっきから後ろばっかり見てる」
藍琉はハッとする。
屋敷の入口。
そこに立っているのは――蒼真だった。
目が合う。
すぐ逸らされる。
胸が痛い。
玲司はため息をつく。
「なるほどね」
「……なによ」
「執事?」
藍琉は何も言えない。
沈黙が答えだった。
玲司は少しだけ驚き――でも笑った。
「面白い」
「は?」
「安心して」
彼は穏やかに言う。
「俺、この婚約乗り気じゃない」
「……え?」
「家の都合」
藍琉は目を見開く。
「君が嫌なら無理しなくていい」
「……ほんと?」
「ただし」
玲司は少しだけ真剣な顔になる。
「一つだけ教えて」
「?」
「その執事、君のこと好き?」
呼吸が止まる。
「……知らない」
「ふーん」
玲司は遠くの蒼真を見る。
「厄介そうだな」
―――――
その夜。
藍琉は蒼真を呼び出す。
「婚約者、どうだった?」
蒼真が聞く。
藍琉は少し黙り。
「……優しそうだった」
「それは何よりでございます」
胸がズキンと痛む。
「でも」
蒼真の目を見る。
「断るかもしれない」
蒼真の表情が初めて揺れた。
「……なぜでございますか」
藍琉は一歩近づく。
心臓が壊れそう。
「好きな人がいるから」
沈黙。
空気が止まる。
蒼真の呼吸がわずかに乱れる。
「……どなたですか」
藍琉は答えない。
ただ――彼を見つめる。
物語はついに核心へ近づいていた。