訓練を終えた一行は、夜の街に停まるバスに乗り込んだ。薄暗い車内の蛍光灯が揺れながら光り、少し疲れた表情の仲間たちを優しく包んでいた。窓の外には、遠くに広がる街の灯りが流れるように過ぎていく。
楡井秋彦は、座席に深く腰を下ろしながら「あー、今日はめっちゃ疲れたっすね。でも楽しかったっす!」と笑顔で呟いた。その隣では桐生三輝が「まったくだね。にれちゃん、ダンゴムシ作戦で結構動いたもんね〜。」と軽く笑った。
桜遥は車内の静かな雰囲気を壊すように「おい、楡井!お前、さっきから寝そうになってるけど降りる場所分かってんのか?」と楡井に声をかけた。
「あ、あっ!やばいっす。寝たら危険っすね!」楡井は慌てたように目を擦りながら答え、車内に小さな笑い声が広がった。
バスの揺れが心地よい眠気を誘う中、夜の静かな車内には、一日の疲れと共に心地よい安堵感が漂っていた。夜のバスが静かに街を走り抜ける中、伊織がゆっくりと眠りに落ち、気付けば隣に座る蘇芳隼人の肩にそっと寄りかかっていた。
その瞬間、桜遥がちらりと二人を見て「…ずるい。」と小さな声で呟いた。しかし、その顔はどこか赤らんでいて、恥ずかしさを隠そうとするようにそっぽを向きながら座り直した。
楡井秋彦はすぐにその様子を見つけて「伊織さん、蘇芳さんに寄りかかってるっすよ!なんか、めっちゃレアな光景っすね!」と声をひそめながら話しかける。
それに対して桐生三輝は「へぇ、これってもしかして…いやいや、ただ疲れて寝てるだけだね〜。」とニヤリとしながら冷静に返したが、どこか茶化すような態度を隠せなかった。
「そんなの関係ないだろ!伊織は寝てるだけだ!」と桜遥が声を荒げると、「あれ、ちょっとムキになってない?」と三輝が笑いをこらえて囁いた。桜遥はすぐに口を閉じて窓の外へ視線を向けるが、その耳はほんのり赤く染まっていた。
蘇芳は肩に寄りかかる伊織を静かに受け止めたまま、何も言わずに穏やかな表情を保っている。彼は優しく彼女の寝顔を守るような雰囲気で、ただ窓の外を眺めていた。
バスが揺れる度に仲間たちの反応も少しずつ変化しながら、静かな車内には小さな笑いや和やかな空気が漂っていた。それぞれの心情が交錯する中、夜の街灯が窓を通して柔らかく光り続けていた。
バスが夜の静けさを切り裂くように走る中、伊織はまだ蘇芳隼人の肩に寄りかかったまま眠り続けていた。車内の微かな揺れと遠くの街の灯りが、彼女の透き通るような白い睫毛と落ち着いた寝顔を照らしていた。その顔はどこか無防備で、どんな嵐でも受け流せそうな冷静さとは異なる柔らかな印象を与えていた。
楡井秋彦はふとその寝顔に目を留め、じっと見つめる。普段の伊織とは違うその美しさに、彼は不思議な感覚を覚えた。彼の心臓は少し速くなるように感じ、胸の中に言葉にならない感情が湧き上がる。
「透き通るような睫毛…。伊織さんって、すっごい綺麗っすね。」秋彦は心の中でそう呟き、視線を少しだけ外す。それでも再び目が引き寄せられるように彼女を見つめてしまう。
しかし、自分がずっと彼女を見つめていることに気づき、秋彦の顔には徐々に赤みが差していった。「な、何してんだオレ…。」そう言い聞かせるように彼は慌ててそっぽを向き、窓の外を無理やり眺めた。その態度はどこか恥ずかしさを隠そうとする必死さが滲んでいた。
桐生三輝がその様子に気付き、「ねぇねぇ、にれちゃん。顔赤いよ。何か見ちゃったの?」とからかいながら声をかける。
秋彦はさらに慌てて「何も見てないっす!そんなことないっすよ!」と声を上げるが、その焦りようが逆に目立つ結果となった。
後ろで桜遥は少し窓の外に視線を向けつつも、気になってちらりと彼らの様子を見て「楡井、なんでそんなに顔赤いんだ。お前まさか変なことでも考えてたんじゃないだろうな?」とぶっきらぼうにキレ気味で言う。
バスの揺れと静かな車内の空気の中、それぞれの心情が複雑に絡み合いながらも、どこか和やかな雰囲気を作り出していた。
バスは夜の街を抜けて、やがて目的地に到着した。車内の蛍光灯が少し明るくなる中、仲間たちはそれぞれ荷物を持ち上げて立ち上がった。
楡井秋彦は「あー、もう降りるっすね。気を抜いたら寝そうだったっすよ!」と言いながら、体を伸ばして眠気を吹き飛ばそうとしている。
桐生三輝はそんな彼を見て「にれちゃんさ、寝てたら置いていかれてたよ。ちゃんと降りてね。」と冗談交じりに声をかけた。
その隣では、まだ肩に寄りかかって眠る伊織を静かに起こそうと蘇芳隼人が声をかける。「伊織さん、着いたよ。そろそろ降りる時間だ。」その優しい声に、伊織は少しだけ目を開けた。
「あ…ごめんなさい、寝てしまったみたいね。」伊織は慌てて姿勢を正しながら、蘇芳の肩を見て少し顔を赤らめた。「ありがとう。気づかなくて申し訳ないわ。」
蘇芳は静かに微笑んで「気にしなくていい。疲れていたんでしょ。」と返しながら、彼女の荷物を手伝い持ち上げる。
バスを降りた仲間たちの前には静かな夜空が広がり、街の灯りが温かく彼らを迎えていた。楡井秋彦は夜風を受けながら「今日も充実した一日だったっすね!」と元気に声を上げ、桐生三輝が「にれちゃん、それなら明日も頑張ろ!」と笑いながら返した。
伊織は少し離れた位置で仲間たちを眺めながら、自分の未来についての思いを胸に秘めていた。その背中には、仲間たちとの絆と、自分らしく歩む決意が滲んでいた。
つづく
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