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「そうだ、姫。
たくさんドレスが着られて、ティアラもつけられるところに連れてってやろうか」
「結構です」
どう考えても、式のドレス選びとしか思えないのだが。
「私はもっと、素朴なデートがしてみたいです」
と言うと、渚は眉をひそめ、
「素朴なデート?
……って、なにするんだ?」
と訊いてくる。
「そ、それが実は、私にも……」
脇田たちが聞いていたら、阿呆なカップルだ、と呟くところだろう。
うーん、と唸った蓮は、
「二人で、波止場を歩いて、ハンバーガーを食べるとか」
と言ってみた。
渚が鼻で笑う。
「イメージが貧困だな」
「じゃあ、貴方、なにかあるんですか?」
と揉めている間に、波止場といったせいか、普通に海辺のレストランに着いた。
「なにも思い浮かばん。
此処で手を打て」
と渚が言ってくる。
「いや、何処でもいいんですけどね」
と多少投げやりに言うと、
「お前、行きたいところはないのか。
今日はお前の行きたいところに行って、したいことをさせてやる」
と言ってくる。
「いや、特にないんですけど。
渚さんは?」
と言うと、
「俺はお前と居られればそれでいい」
と渚は言った。
……この人は、どうして、真顔でこういうことを言ってくるんだ。
「そこで言わないのか?」
「はい?」
「私も渚さんが居ればいいです、とか」
「そんな思ってもないことは言えません。
わかりました。
ご飯を食べて、ゲーセンで遊んで、工場群の夜景をみたいです」
わかった、と渚は言う。
「ゲーセンとか久しぶりだな」
と車を降りながら言うので、
「えっ、ゲーセンとか行くんですか?」
と訊くと、
「行ってたぞ、学生時代は。
脇田とかと」
と言ってくる。
「脇田さんって、古いお友達なんですよね?
なんで、渚さんの会社に?」
「いや、最初は職場に信用できる人間が居るかどうかもわからなかったからな。
とりあえず、使える脇田を強引に連れていったんだ。
脇田は別の会社に行きたかったようだが」
「可哀想じゃないですか……」
今の我が身を振り返り、蓮は呟く。
「あいつが本当に嫌なら、やめさせるつもりだった。
でもなんていうか」
と少し上を見て、
「あいつ、秘書天職だよな」
と言う。
まあ、それはそうかもしれませんけどね、と思った。
「よし、ゲーセンに行ったら、久しぶりに銃でも撃つか。
撃つとスカッとするからな」
と渚は機嫌がいい。
「いつも、ガンシューティングとかやってたんですか?」
と訊くと、
「いや、銃は本物を撃ってた」
と言ってくる。
海外に行ったときの話だろう。
「あの、ゲーセンのは偽物ですからね……」
一応、確認のために言っておいた。
本当は、工場の夜景はナイトクルーズで見たかったのだが、突然だったので、予約が取れず、夜景の見える波止場から見た。
かなり近くに対岸の工場が見える。
此処の夜景は青みがかった光だった。
「なんか……宇宙か未来に居るみたいですね」
と呟く。
「『今』って時間はないからな。
今って言ってる間に過ぎ去ってるから。
今と言ってる間に、常に未来が来てるんじゃないのか?」
「そうですかね。
私は常に今で、未来には行けてない気がしますよ」
「……安定志向だな」
と言ったあとで、渚は、ちょっと間を置いて、こちらを見、
「ところで、俺と結婚してくれ」
と言ってくる。
「今の会話の流れと合ってませんが……。
徳田さんに、今日はそう言ってこいと言われましたか?」
と言うと、渚は渋い顔をし、
「徳田には、女は言葉を欲しがる生き物だから、ちゃんと言ってこいと言われたんだ」
と白状した。
「言わなくても伝わってると言ったんだが」
「いやあの……なにも伝わってませんからね」
伝わっていないということが、まず、伝わっていない。
これだから、言葉って必要なんだな、と痛感する。
「お前もあれか。
指輪を渡して、結婚してくださいとか言って欲しいのか」
なんだ、その言い方、と思いながらも、
「いや、それは別にいいんですが」
と言うと、渚は少し考え、何故か一度、車に戻る。
なにか持って戻ってきたと思ったら、蓮の頭に、いきなりティアラを載せ、
「よし。
結婚してくれ」
と言ってくる。
いや……よしっ! じゃないし。
これしかなかったのはわかるが。
「……なんだか激しく違う気がします」
と言ったのだが、渚は笑う。
「そうかもしれないが、綺麗だぞ」
「ああ、ティアラが?」
夜景の光に反射して綺麗なのだろうか。
自分も見てみようと思い、外そうとしたとき、渚が言った。
「いや、お前が」
だーかーらー。
どうして、貴方は照れもせずに、そういうことをさらっと言うんですか。
「愛してるよ、蓮」
「……あのー、それも、徳田さんに言えって、言われたんですか?」
「言うわけないだろ」
そう言いながら、渚はキスしてくるが。
単に子供が欲しいだけだったはずなのに。
いつ、それが愛に変わったと言うのだろうか。
そう思う蓮に、離れた渚は訊いてくる。
「今日は泊まってっていいか?」
「いやあの……なにかの陰謀のような気して、しょうがないんですが」
徳田さんと二人で、私を孕ませようと画策しているとしか思えないんだが。
「なにを言う。
大丈夫だ」
俺を信用しろ、と何故か威張ったように、渚は言うが、いや、いまいち、信用できない、と思っていた。
じゃあ、なんで、今、キスされたとき、逃げなかったのかと問われたら。
まあ、ちょっと困るところなのだが……。
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