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みら

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翌朝。
阿部が目を覚ますと、隣ではまだ目黒が眠っていた。
昨日一日。
九人で夢の国を歩き回って。
笑って。
食べて。
乗り物に乗って。
写真を撮って。
帰ってきた頃には、全員くたくただった。
阿部は目黒を起こさないように、そっとベッドを抜け出す。
リビングへ行って。
ソファに座る。
なんとなくスマホを開いた。
康二から届いていた写真が、何十枚も並んでいる。
入口で撮った九人の写真。
佐久間が笑いすぎている写真。
食べ物を抱えているラウール。
岩本の腕を掴んでいる深澤。
宮舘の隣で笑っている渡辺。
そして。
自分の隣には、いつも目黒がいた。
阿部は一枚ずつ、ゆっくり見ていく。
「……楽しそう」
自分で言って。
少し笑う。
実際。
すごく楽しかった。
夢だと知ったあとだったのに。
全部偽物なんだと感じることはなかった。
むしろ。
今までより大切に感じたくらいだった。
阿部は、夜に撮った九人の写真を開く。
少しブレている。
誰も完璧にカメラを見ていない。
でも。
全員が楽しそうだった。
「現実じゃ」
小さく呟く。
「こんなの、簡単には撮れないんだろうな」
九人で普通に出かけることも。
人の目を気にせず、一日中遊ぶことも。
目黒と手を繋いで歩くことも。
きっと。
ここほど簡単ではない。
でも。
阿部は少し考えた。
「……簡単じゃないだけか」
できない。
とは。
少し違う。
人が少ない場所を選んだり。
時間を考えたり。
旅行なら貸し切れる場所を探したり。
工夫すれば。
何かはできるかもしれない。
阿部は、そのことに自分で少し驚いた。
昨日までは。
夢だからできる。
そう思っていた。
今は。
帰っても、何かできるかもしれない。
そんな考えが。
自然に浮かんだ。
阿部は。
自分の部屋から持ってきていた新しいノートを手に取った。
記憶をなくしてから。
自分が何を好きなのか。
何が得意なのか。
誰と出会ったのか。
少しずつ書いてきたノート。
ページをめくる。
『仕事は楽しい。』
『一人より、みんなといる方が好き。』
『数学も得意みたい。』
『人に教えるのは好きかもしれない。』
『ラウールに数学を教えた。』
『佐久間のおすすめの本が面白かった。』
『康二に写真を撮ってもらった。俺、思ってたよりよく笑ってる。』
『残ってないなら、これから残せばいい。』
『初めて全員そろった。』
『みんなで写真を撮った。』
『一番好きな写真ができた。』
阿部は。
しばらくその文字を見ていた。
これは。
記憶を失っていた自分が書いた言葉。
昔の自分ではない。
でも。
間違いなく自分だ。
阿部は新しいページを開く。
ペンを持つ。
少し考えてから。
書いた。
『九人で夢の国に行った。』
その下に。
『すごく楽しかった。』
さらに。
少し迷って。
『夢なのに、ちゃんと思い出になった。』
そこで。
手が止まる。
康二の写真をもう一度見る。
九人。
笑っている。
また。
行けたらいい。
そう思った。
そして。
阿部は何気なく。
次の一文を書いた。
『帰ったあとも、九人でどこかに行きたい。』
書いてから。
止まった。
「……え?」
自分の文字を見る。
もう一度読む。
『帰ったあとも、九人でどこかに行きたい。』
「帰ったあと……?」
口に出してみる。
胸が。
少しだけざわついた。
帰る。
まだ。
決めていない。
ここに残りたい気持ちだってある。
現実は怖い。
あの女優のことも。
仕事のことも。
全部。
思い出した。
なのに。
自分は今。
帰ったあとのことを書いた。
しかも。
無意識に。
阿部はペンを持ったまま、しばらく動かなかった。
「俺」
小さく呟く。
「帰りたいのかな」
分からない。
まだ。
はっきりとは。
でも。
少なくとも。
現実へ帰った自分を。
少しだけ想像できるようになっていた。
昨日までは。
帰ったら怖い。
それしかなかったのに。
今は。
帰ったら九人で出かけたい。
そんな未来が。
一つ。
浮かんでいた。
「何書いてるの?」
突然。
後ろから声がして。
阿部はびくっと肩を揺らした。
「うわ!」
慌ててノートを閉じる。
振り返ると。
寝起きの目黒が立っていた。
「めめ」
「おはよう」
「おはよう」
目黒はまだ少し眠そうだった。
髪も乱れている。
「何?」
目黒が閉じられたノートを見る。
「何書いてた?」
阿部は反射的に。
ノートを胸へ抱えた。
「内緒」
「え?」
「見せない」
「昨日まで結構普通に見せてくれてたのに」
「今日は駄目」
「なんで?」
阿部は少し考える。
さっき書いた一文。
『帰ったあとも、九人でどこかに行きたい。』
目黒に見せたら。
きっと。
喜ぶ。
でも。
まだ。
自分でも。
その意味が分かっていない。
期待させたくなかった。
何より。
もう少しだけ。
自分で考えたかった。
「まだ」
阿部は言う。
「自分でも分かんないから」
目黒は。
一瞬だけ阿部を見る。
それから。
何も聞かなかった。
「そっか」
「……それだけ?」
「うん」
「気にならないの?」
「気になるよ」
「じゃあ聞かないの?」
目黒は少し笑う。
「あべちゃんが話したくなったら聞く」
阿部は。
その言葉に少し黙る。
また。
待ってくれる。
昔から。
ずっと。
全部思い出させようともしなかった。
帰れとも言わない。
今も。
阿部が自分で話すまで。
待つ。
「……めめって」
「何?」
「結構我慢強いね」
目黒は少し考える。
「相手があべちゃんだからじゃない?」
「そういうこと普通に言うよね」
「本当だから」
「はいはい」
阿部は。
少し照れながらノートをテーブルへ置いた。
目黒はそれ以上見ようとしない。
そのまま。
キッチンへ向かう。
「朝ごはん何食べる?」
「作るの?」
「作るよ」
「昨日いっぱい歩いたのに?」
「別に平気」
「俺も手伝う」
「じゃあ一緒に作ろう」
阿部は立ち上がる。
その前に。
もう一度だけ。
閉じたノートを見る。
中には。
まだ誰にも見せていない言葉がある。
『帰ったあとも、九人でどこかに行きたい。』
阿部は。
それを消さなかった。
朝ごはんを食べて。
少しのんびりしてから。
阿部と目黒は、みんなのところへ向かった。
昨日。
九人で夢の国を歩き回ったせいなのか。
身体が重い。
「夢なのに疲れるんだね」
阿部が言う。
目黒も隣で笑う。
「リアルすぎるんじゃない?」
「俺の夢のせい?」
「多分」
「何でも俺のせいにするじゃん」
「だってあべちゃんの夢だし」
「便利だな、それ」
そんな話をしながら。
いつものカフェへ着く。
でも。
少し様子が違った。
外に。
いつもの看板がない。
阿部は足を止める。
「あれ?」
「どうした?」
「看板」
一昨日。
宮舘が持ってきて。
『閉店しました』
と書いていたもの。
今日は。
出ていなかった。
「まだ休みなのかな」
そう言いながら扉を開ける。
中には。
みんないた。
でも。
誰も働いていない。
佐久間は椅子に座って足を伸ばしている。
ラウールはテーブルに突っ伏している。
深澤はソファ。
渡辺は宮舘の隣。
岩本も。
カウンターにもたれていた。
「……全員疲れてる」
阿部が笑う。
佐久間が顔を上げる。
「あべちゃん!」
「元気そうじゃん」
「声だけね!」
「何それ」
「足痛い!」
ラウールも顔を上げる。
「俺も」
「ラウ、あんなに食べてたのに?」
「食べるのと歩くのは別」
「夢なんだから回復しててもよくない?」
渡辺がぼそっと言う。
「ほんとそれ」
深澤も頷く。
「夢なのにちゃんと疲れるの意味分かんない」
阿部は笑う。
その時。
宮舘が静かに言った。
「阿部」
「何?」
「俺」
少しだけ渡辺を見る。
「もうカフェ、やらないことにした」
「……え?」
阿部は。
思わず店の中を見る。
カウンター。
テーブル。
最初に働いた場所。
飲み物の作り方を覚えたところ。
みんなと。
少しずつ仲良くなった場所。
「やめるの?」
「うん」
宮舘は穏やかに頷く。
「昨日考えた」
「なんで?」
「この店をやってた理由」
一度。
言葉を切る。
「阿部が来る場所を作るためだったんだと思う」
阿部が黙る。
宮舘は続ける。
「一人でいたくないって思った時に」
「誰かと話せる場所」
「ご飯を食べられる場所」
「働いてみたいって思った時に、受け入れられる場所」
阿部は。
胸の奥が少し熱くなる。
確かに。
ここがなかったら。
自分は。
あの部屋から出なかったかもしれない。
「でも今は」
宮舘が笑う。
「もう必要ないでしょ」
阿部が目を瞬く。
「必要ない?」
「それに」
渡辺を見る。
「俺も、翔太と過ごしたいから」
「……は?」
渡辺が宮舘を見る。
「なんで俺見ながら言うの」
「事実だから」
「いや、そうだけど」
「この世界なら」
宮舘は続ける。
「店を毎日開けなくてもいい」
「働かなくても困らない」
「だったら」
少しだけ笑う。
「翔太と二人で過ごしたい」
渡辺の顔が。
少しずつ赤くなる。
「……急に言うなよ」
「嫌?」
「嫌とは言ってない」
「じゃあいいね」
「勝手に決めるな」
でも。
渡辺は。
宮舘の隣から離れなかった。
阿部はそれを見て。
少し笑った。
「館さん」
「うん?」
「いいと思う」
「ありがとう」
「夢の国も行きたいって言ってたし」
「うん」
「今度は二人で行ってきなよ」
渡辺がぼそっと言う。
「あべちゃんに言われたら断れないじゃん」
「断るつもりだった?」
「ないけど」
「じゃあいいじゃん」
その話を聞いていた深澤が。
少し考えるように岩本を見る。
「照」
「何?」
「俺らも」
「うん」
「バーやめようかな」
阿部が振り返る。
「ふっかたちも?」
「うん」
深澤は。
カウンターを見る。
「楽しかったけど」
「もう夜ここにいなくても、みんな普通に集まるし」
「それに」
岩本を見る。
「俺も照と遊びたい」
岩本が笑う。
「結局それ?」
「大事でしょ」
「まあね」
「昨日夢の国行って思った」
深澤は少しだけ照れたように笑う。
「仕事とか時間とか気にしないで、照と一日過ごすの」
「結構楽しいかもって」
「昨日一日だけで?」
「一日で十分分かるでしょ」
「そう?」
「そう」
岩本は少し考えて。
「じゃあ、やめてもいいかもね」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ今日で終わり?」
「今日何もしてないけど」
「じゃあ終わり」
「雑だな」
二人が笑う。
阿部は。
それを見ながら。
また少し不思議になる。
この世界に来た時。
みんなにはそれぞれ。
仕事があった。
役割があった。
宮舘はカフェ。
岩本と深澤はバー。
佐久間は本屋。
ラウールは大学。
目黒は会社。
でも。
少しずつ。
それをやめている。
佐久間も。
ラウールも。
目黒も。
そして今度は。
宮舘。
岩本。
深澤。
まるで。
みんなが少しずつ。
元の役割から自由になっていくみたいだった。
「俺はやめへんで」
突然。
康二が言った。
阿部が見る。
「仕事?」
「そう」
康二はカメラを持ち上げる。
「俺は写真続けたい」
「なんで?」
「好きやから」
迷いのない答えだった。
「この世界やったら」
康二は嬉しそうに続ける。
「好きなだけ撮れるし」
「行きたいところ行けるし」
「誰撮っても怒られへんし」
「それに」
少しだけ笑う。
「あと一日やからな」
「何が?」
阿部が聞く。
康二の顔が。
ぱっと明るくなる。
「写真集!」
「あ」
「明日発売や!」
佐久間が勢いよく起き上がる。
「そうじゃん!」
「足痛いんじゃなかったの?」
「写真集は別!」
「何が別なの」
「明日朝一で買いに行く!」
康二が笑う。
「本人ここにおるで?」
「分かってるよ!」
「渡したるのに」
「違うの!」
佐久間は真剣だった。
「店で買いたいの!」
「何が違うんや」
「発売日に本屋で買うのがいいの!」
阿部が笑う。
「佐久間らしい」
「でしょ?」
「褒めてないけど」
「褒めてる!」
ラウールも顔を上げる。
「俺も見たい」
「買う?」
康二が聞く。
「買う」
「何冊?」
「一冊でいい」
「さっくんは?」
「何冊買おうかな」
「一冊にしなよ」
阿部が笑う。
康二は。
カメラを見ながら。
少しだけ真面目な顔になる。
「この世界でな」
「うん」
阿部が返す。
「仕事なくても生きていけるんやろ?」
「多分」
「でも」
康二はカメラを撫でる。
「撮りたいんよ」
「仕事やからじゃなくて?」
「うん」
「好きだから?」
「せや」
康二は頷く。
「現実でも好きやし」
「ここでも好き」
「やから」
阿部を見る。
「俺は最後まで撮っときたい」
その言葉に。
阿部は少し黙った。
「最後まで」
夢が。
いつ終わるか。
誰も分からない。
阿部が決めるまで。
続くのかもしれない。
それでも。
康二は。
そこまで。
写真を撮りたいと言う。
「そっか」
阿部は笑う。
「じゃあいっぱい撮って」
「任せて」
「写真集も楽しみ」
「ほんま?」
「うん」
「明日みんなで買いに行こ」
佐久間がすぐ言う。
「行く!」
ラウールも乗る。
「俺も」
深澤。
「俺も見たい」
岩本も頷く。
渡辺は。
「人多くない?」
と言いながら。
宮舘を見る。
宮舘が。
「一緒に行こう」
「……まあいいけど」
結局。
また。
全員。
行くことになった。
阿部は。
その光景を見ながら笑う。
昨日は夢の国。
明日は。
康二の写真集。
この世界で。
まだ。
楽しみにしていることがある。
みんなも。
自分も。
宮舘が。
何も置かれていない店先を見る。
「じゃあ」
「うん?」
阿部が見る。
「この店は今日で終わり」
少しだけ。
胸が寂しくなる。
「本当に?」
「うん」
「寂しい?」
宮舘が聞く。
阿部は。
店内を見る。
ここで。
たくさんのことを覚えた。
記憶をなくした自分が。
最初に居場所を見つけた場所。
「ちょっと」
正直に答える。
宮舘は。
優しく笑った。
「なくなるわけじゃないよ」
「え?」
「店をやめるだけ」
「ここはある」
テーブルも。
カウンターも。
キッチンも。
「集まりたくなったら来ればいい」
「ご飯も作るし」
「翔太もいる」
「俺もセットなの?」
渡辺が言う。
「もちろん」
「勝手にセットにされた」
そう言いながら。
少し嬉しそうだった。
阿部は。
その二人を見て。
「そっか」
と笑った。
仕事がなくなっても。
場所がなくなるわけではない。
役割がなくなっても。
関係がなくなるわけでもない。
もしかしたら。
この夢は。
少しずつ。
そういう場所に変わっているのかもしれなかった。
誰かが。
何かの役を演じなくても。
ただ。
九人でいられる場所へ。
そして明日は。
康二がこの世界で撮り続けたものが。
一冊の本になる日だった。
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今晩は⭐️ 一気に読みました。 ほんの少し帰りたいと思って居る 9人が追いかけられない囲まれない獲られない 本当自由に恋人として一緒にいれる アイドルでなく一般の人仲の良い仲間と 続き待ってます♪
第28話、読み終えました! 阿部が「帰ったあとも、九人でどこかに行きたい」って無意識に書いた瞬間、胸がギュッとなりました。自分でも気づかないうちに「帰る未来」を想像できるようになってる……その変化がすごく丁寧に描かれていて、じんわり来ましたね。 それに、宮舘がカフェをやめる話も良かった。「阿部が来る場所を作るためだった」って理由に、この世界の優しさが詰まってるなあって。そして康二だけは「好きだから」って写真を続ける。みんなが少しずつ役割から自由になって、ただの九人になっていく感じが、終わりに向かって準備してるみたいで少し切なかったです。 明日は写真集の発売日。楽しみで仕方ないです。