テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……遅い。出産とは、これほどまでに時間を要するものなのか。……もしや、医療体制に不備があるのではないかっ!?」
ガタッ、と椅子を蹴らんばかりに立ち上がり、カイル殿下は部屋を何度も往復した。
「殿下、大丈夫っすよ。……気晴らしに手合わせでもします? 少しは気が紛れ――」
「ギルバート! 貴様、何を考えているのだ! 手合わせの最中に生まれたらどうする! 俺は我が子の声を、1秒たりとも聞き逃したくないのだ!!」
(……いや、ここ執務室っすよ。産室の隣じゃないんだから聞こえねーし)
ギルバートは、深いため息をつきながら天を仰いだ。
(……はあ。この主君、ソフィア様への愛が重すぎてついていけねえ……)
彼の脳裏には、ここ数日の殿下の奇行が走馬灯のように駆け巡った。
• 医療体制: 最高の侍医がいるのに、国中の名医と助産師を緊急招集。
• 名前: 夜な夜な「命名辞書」をめくり、100個以上の候補を書き出して寝不足。
• プレゼント: 赤ん坊から10歳までのオーダーメイド服を、倉庫が埋まるほど発注済み。
• 極めつけ: 女の子だと判明した夜。「……俺は、娘が嫁に行くのを想うと耐えられない!」と18年も先の心配をして、酒を煽りながら号泣。
扉がバタンと勢いよく開かれ、アンナが飛び込んできた。
「殿下! 生まれました! 元気な女の子です!!」
「……っ、ソフィアは無事なのか!?」
カイル殿下が詰め寄るが、アンナはやれやれと肩をすくめて、腰に手を当てた。
「もう! 殿下ったら! お嬢様はピンピンしてますよ! 母子ともに健康そのものです!」
「そ、そうか……! 健やかなのか……っ。 すぐに行くぞ! ギルバート、今日の残務はすべて任せた。今日一日は俺を呼ぶな、一歩も部屋から出んからな!!」
山積みの書類を前に置いてけぼりを食らったギルバートは赤髪をガリガリと掻いた。
(……一日どころか、一週間は出てこねえな、ありゃ。俺が事務仕事っすか。やってられねえ)
#溺愛
88