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徒弟
「師兄……」
僕はただ怒りが収まらざりき。師兄は何もしたらぬ、なるを勝手に文句を言はれ何年も敢ひ続けてゐしや。さるうつつを言はれせば何をして良きや分からざれど、ただひたすら師兄に会はまほかりき。驚かば僕は走り出して師兄の居る小屋へと走りき。ただひたすらに走り出しき
「 師兄!」
「……何なり」
「僕が貴方の名を考へはべり」
師兄は突然の言葉にいみじく混乱したりき。
「……わ、私には名前をいふ資格がなしと言ふなり」
「名乗らば名乗る程恥ずかしくなる」
暗き表情をする師兄を目の前に僕は師兄の手を握って視線を合はせ話続けた。
「名乗れども恥ずかしくなしめりするにはべり。」
「今の名は師兄に相応しからず」
キラキラと目を光らせき。師兄は僕の目を手で覆ゐ被せ「例えば?」と問ひ掛けき。僕は師兄に相応しき名をいみじく深く考へき
「琳琅……とかどうにはべるや」
「徒弟。お前と覚えたり」
無意識なりきとヘラヘラと笑ひき。琳琅、由来は美しき宝石のよう
きっと師兄にピッタリの名前なり。 師兄は暫く考へ、そっと口を開きき
「徒弟、お前はげに可笑しなる人なり。人が閉ざせし物にズカズカと入りてく」
怒らる?と僕はいみじく恐れ縮こまった。さる僕を見て師兄は優しく僕の頭を撫でき。僕は驚き師兄の方を見ると師兄は優しく微笑み掛けたりき
「ありがとう。名を聞かれし時私はきっと琳琅と名乗る。」
「師兄……」
かかる顔をしたる師兄を見るは初めてなりき。師兄の顔はげに美しき宝石のごとく美しかりき
「今日は何を食べまほし。徒弟の好きなる物にせむ」
師兄に心を掴まれしやうに感じき。一生師兄の傍に居たいそういみじく思へき
「師兄!町へ出掛けはべらざるや」
ひと月経ったぐらいの時、僕は町に行かむと師兄を誘ひき。師兄は否ぶと思ったゐれど師兄は「嗚呼」と頷きをしき。師兄と出掛けらるる事にいみじく感激し、ウキウキで支度をしき
「徒弟。待て」
小屋より出でむとすれど師兄に止められき。言はれし通りに止まると師兄は白き布のごとき物を差し出しき。受け取り広ぐとそれは衣服なりき。いと綺麗なる服で驚きき
「くるるにはべるか、師兄」
「嗚呼」
手作りのごとく感ぜし。師兄よりの贈り物にいみじく嬉しく思へき。出掛けらるる事に喜びを感じたれど、其の喜びは贈り物へと変はりき。何故師兄がかかるにも尽くしてくるるや分からざれど、さる事気にならざるくらいに僕は喜びたりき
早速着替へて師兄に見せせば師兄は「似合ひたり」と一言溢しき
全てが嬉しくて僕はウキウキるんるんになりたりき
師兄と共に歩みたりせば町の人達がこころもとな~さうに覗ゐたるが分かりき。僕や師兄に話し掛けはせず、ただ見てゐるのみのごとかりき。(其で良き邪魔されせば困る)と心の中で叫び僕は無心で歩みたれど 師兄は気まずさうに隣を歩みたりき。
デートを楽しみたる所と言ふを神とは意地悪なる物なり
「師兄、かれは何にはべり?」
何か黒き塊が落ちたるを見き。僕が其に近寄ろうとせし時、師兄は僕を止めき。足を止めし時、どっと弓が降りてきたり。人々は恐れ泣き喚く輩も居た
師兄は僕の手を引き、屋根の下へと入りき
「かれは一体……」
僕が呟ゐし時、後ろより何やら声が聞こえし「生け贄……」と何度も呟いてゐるめりき。師兄は暗き顔をしたりき。師兄は僕を隠すやうに抱き抱えてゐき。何故さしたるや僕には分からざれど師兄には察しついてゐるならむ
弓が止み一安心すれど、「生け贄は誰なり」と何者かが叫んでゐき。こんなとこに連れてきにきと我を憎み、師兄に謝罪をしき
「すみはべらぬ、師兄……」
「……お前は悪しからず。こうなる事はいづれも分かりたりき」
師兄の言ふはあまり理解が出来ざりき。いかでと問ひ掛くれども返答はなかりき。軽く抱き締められてゐれど次第に強く抱き締められてゐるやうに感じき。
「師兄…苦しき、」
「徒弟。私を憎まないでくれよ」
「師兄……?」
師兄はいみじく震えてゐき。さる時、後ろより細ゐ声で何か聞こえし「生け贄ならば……」と老婆が師兄の中にゐる僕を指差しき。僕は驚き声が出なくなりたりき
人々は老婆の言葉に対して「子供はよし」「生け贄に相応し」等と宣ってゐき。
師兄はそれを聞き、僕をぎゅっと抱き締めてそっと離しき。
「師兄……」
僕より離るる師兄を僕は絶望せし顔で見詰めた
「この子は10の年頃なり。みなが言ふやう確かに価値はあり」
「……師兄…?」
師兄の言葉を聞きて見知らぬ人達は僕を押さへ付けき。興奮気味で力も強し。僕は抵抗出来ざりき
師兄と呼びても師兄は返事をしてくれざりき
「……なるが、私は不老不死なり。ただの餓鬼と不老不死の私。どちらが価値のある物か」
「師兄……?何故、」
師兄がそういふと的が変わったのごと~で僕につくる予定なりし縄は師兄の方へと付けられき。師兄は大人しくただ下を向ゐたりき
的が変はれど僕には未だ手足が縛られてゐて身動きは出来ず
「師兄、何で師兄は僕を庇うのにはべるや」
叫ぶやうに問ひ掛けき。師兄は少し黙り、今まで見せし事無しめる美しき目で僕を見詰めた
「例へ、お前がいかなるに醜ゐ罰を背負ひきとすれども私の英雄なるをは変わりなし。」
「次は上手くやりてくるな。私はお前の味方で有り続ける」
微笑む師兄は美しかりき。どうせならばなほ早くゆかしかりき。かかる美しきならばなほ貴方は美しと伝へば良かりき
「徒弟、いや、汪渕。花は好きか」
「好きにはべり」
と応えたが声は震えまくりで日本語かどうか理るは不可能なぐらいなりき。さる僕を見て師兄は優しく微笑みかけ
「捧げよう」
と応えた。その言葉を忘るる事は出来ざりき。師兄が目の前でいみじき目に合わされたるを見るはいみじく虚しく思へき。生きたりて幸せなる時はありしや、辛かったねと寄り添ってあげまほかりき。何度も後悔すれども、あの時の時間は戻ってこざりき
ショックのあまり、僕は何日も目を覚まさざりき。町の人が僕を見付けてくれ僕の家へと届けてくれけり。その場所には誰も居なかりきと言ふ。驚きし後、何がありしや問ひ掛けらるれど僕は応える気になれざりき。かれより僕が20を超えし頃、跡継ぎの事やら勉学やらなんやらで色々と忘れたりき。
両親が時々話してくるるが何の事か思ひ出せなきくらいなりき