ー怪しい…ー
チャイナ国内は、思っていたよりも賑わっており、活気に満ち溢れていた。
イブラヒムは相変わらず堂々とした足取りでヒールを鳴らしている。と、思いきや、エクスの後ろにぴったりくっついて、エクスの服の裾をぎゅっと握っている。
エクスは困ったような、でも嬉しそうな笑みを浮かべて言う。
「あのー…イブ様?そんなにくっつかれると歩きづらいのですが…」
イブラヒムは辺りを見渡しながら頬を膨らませて答える。
「う、うるさいっ!このままで良いだろう?」
そして躊躇いながら言う。
「先程も言ったであろう?チャイナは一歩外れたらもう治外法権だ。ここ中央通りはまだ安全だが、東通りと西通りの治安の悪さは測り知れない…」
そう言われて、エクスはふと横の薄暗い路地を見る。身体中に大量の入れ墨の入った男たちが、虚な目で大量のパイプを吸っている。おそらく麻薬か何かだろう。確かに、治外法権。
「…ですね。でも大丈夫です。イブ様のことは俺が守ります。何せ、”付き人”ですから。」
エクスのその言葉に、イブラヒムの顔は真っ赤になるのだった。
「っっ…!もう、いいから!!先へ進むぞ!」
「你好。*(やあ。)*」
チャイナの中心に位置する王宮に着くと、皇帝があたたかく迎え入れてくれた。若く、上背があり、端正な顔立ちをしている。そして口元に穏やかな笑みを浮かべた皇帝の姿を見るなり、イブラヒムは満面の笑みで抱きついた。
「帝君!好久没见!你好吗?*(帝君!お久しぶりです!お元気でしたか?)*」
「好久不见。我很好。*(久しぶり。私は元気だよ。)*」
イブラヒムと皇帝は、笑顔で会話をしている。
(イブ様、チャイナの言語も話せるんだ…)
チャイナの言語がわからないエクスは、少し不快感を覚えた。2人が親しく不貞腐れていると、皇帝がエクスを指し、イブラヒムに何やら耳打ちする。
「明白了。(わかりました。)…エクス!私と皇帝は別室で商談をしてくる。お前は客間で待っていてくれ。」
「…はい。」
どうやら付き人は皇帝の部屋に入ってはいけないらしい。仕方のないことかもしれないが、エクスはイブラヒムが心配だった。なぜなら、先程からイブラヒムを見つめる皇帝の表情が、通常ではないと感じていたからだ。
(なんだろう…怪しい気がする。)
エクスはしぶしぶ客間へ足を運んだ。
そんなエクスを横目に、皇帝は口元に笑みを浮かべ、腰元の怪しげな小瓶を揺らすのだった。
続く
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