テラーノベル
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二月の冷気は、遮光カーテンで完全に遮断された防音室にさえ、底冷えするような静寂を運んできていた。
しかし、デスクの上に並ぶ複数のハイエンドモニターが放つ暴力的なルクスは、部屋の空気を奇妙に加熱している。
その夜、世界は「聖バレンタイン」という欺瞞に満ちた祝祭に沸き立っていた。
恋人たちが甘美な言葉を交わし、溢れる愛をデジタルネットワークの海へと放流する日。
Noliにとって、それはこれ以上ないほど「醜悪で、同時に最高に利用価値のある」舞台装置だった。
「ねえ、セブン。人間っていうのはどうして、こんなにも脆いシステムの上に自分の全感情を預けられるんだろうね」
Noliはデスクの端に浅く腰掛け、細い脚を組んで揺らしながら、手元で小さなビターチョコレートの包みを弄んでいた。
セブンの指先は、すでに三時間以上もノーミスでキーボードの上を踊っている。
彼が今構築しているのは、国内最大手のSNSインフラの基幹交換機へ潜入するための、特製のエクスプロイトコードだった。
「感情の通信なんてものは、パケットの優先順位(QoS)を一つ書き換えるだけで容易にゴミ箱へ捨てられる。……よし、接続を確立した」
セブンが冷徹な声で告げると同時に、エンターキーが静かに叩かれた。
仕込まれた「c00lgui」の亜種プログラムが、SNSのルーティングテーブルを完全に掌握する。
それは、メッセージの送信元と送信先のアドレスをミリ秒単位で完全にランダムに入れ替えるという、極めて悪質で、かつ芸術的な「バグ」だった。
世界中で、告白の言葉が全く見知らぬ他人に届き、密やかな裏切りが最悪の相手へと誤送信され、愛の誓いが一瞬にして修羅場の引き金へと変貌していく。
画面の片隅に表示させたリアルタイムのトレンドワードは、またたく間に絶望と混乱の悲鳴で埋め尽くされていった。
「素晴らしいよ、セブン! まさにカオスのオーケストラだ。これこそが僕たちのバレンタイン・ショーさ」
Noliは狂おしい歓喜に瞳を爛々と輝かせ、手の中にあった漆黒のビターチョコレートを、銀紙を引き裂いて自分の口へと放り込んだ。
カカオの濃厚な苦味と、わずかな甘みが彼の舌の上で溶け出していく。
Noliはそのまま滑り落ちるようにデスクから移動し、作業を終えて椅子に背を預けたセブンの膝の上へと、強引に跨るようにして腰を下ろした。
「ッ、Noli――」
セブンがその奔放な行動に眉をひそめた瞬間、Noliの細い両手がセブンの頬を強く包み込み、逃げ場をなくすように固定した。
至近距離で見つめ合う二人の視線。
Noliの瞳には、画面の青白いエラーログと、セブンへの異常なまでの執着が混ざり合って、妖しく明滅している。
「世界中に最悪のスパイスを配ったんだ。……僕たちだって、とびきり甘くて苦い特等席の報酬を受け取る権利があるだろう?」
言い終える前に、Noliはセブンの唇へと自分の唇を激しく押し付けた。
驚きに僅かに開いたセブンの唇の隙間から、Noliは躊躇なくその熱い舌を滑り込ませる。
それと同時に、彼の口内で半分ドロドロに溶けかけていた、カカオ90%のビターチョコレートが、セブンの口内へと容赦なく流し込まれた。
「ん……む……っ」
舌と舌が絡み合うたび、濃厚なチョコレートの苦味が、互いの熱い唾液と混ざり合って口腔内を満たしていく。
それは甘美というにはあまりにも重く、泥濘のように粘り気のある、背徳の味がした。
Noliはセブンの黒いパーカーの襟元をきつく握りしめ、さらに深く、貪るようにセブンの理性を侵食していく。
セブンの口内を自分の色で染め上げ、その呼吸さえも支配しようとするような、強烈な独占欲の顕現。
セブンは、鼻腔を突くカカオの香りと、目の前で悦びに身を震わせている相棒の体温に、脳の奥の回路が焼き切れるような錯覚を覚えた。
諦念に似た深い息を吐き出しながら、セブンはNoliの細い腰を大きな手でがっしりと掴み、今度は自分の方から、その口内のすべてを略奪するように激しく応じた。
「ん、んん……っ、あ……」
濃厚なキスの合間に、行き場を失った甘苦い液体が二人の唇の端から溢れ、セブンの顎を伝って胸元へと一筋の線を引いて滴り落ちる。
画面の向こうでは、数百万人の人間が自分たちの仕掛けた「インシデント」によって愛の破滅を迎えているというのに、この暗闇の玉座では、二人の悪魔が互いの存在だけを狂ったように貪り合っていた。
ようやく唇が離れた時、二人の息はひどく荒く、その唇はチョコレートと互いの唾液で濡れ光っていた。
Noliはセブンの胸に額を預け、掠れた声で満足そうにクスクスと笑った。
「ねえ、セブン。これ以上のバレンタインが、この世界のどこにあるっていうんだい?」
セブンは何も答えず、Noliの唇を親指で乱暴に拭うと、もう一度、その細い身体を壊れ物のように強く抱きしめるのだった。
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城プル
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