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第5話 有形無実
「じゃあ、物は……」
と相手は呟く。その言葉を聞き、
「──物?」と私は反応をした。
「はい……物なら消えないのかなぁって思って……」
確かに。その発想があったかと思いノートを取り出した。
「何書こうか……」
そう考えていると、相手は
「じゃあ」と言いポケットをガサゴソと漁っている。
「この飴。」
そう言いポケットから取り出した飴を手に持ち私に見せてくる。
「飴?それをどうすれば……」
飴は動かないし、固有名詞でもない。どうすればこの飴を対象にできるんだろう……と疑問に思っていると、
「目の前にある飴が昨日『有った』でいいんじゃないですか?」
と言われた。
「確かに」
と納得し、その言葉をそのままノートに書いた。
……ペン先が『有った』と書き終えた瞬間、飴がフッと空気に溶けるように消えた。
音も熱も、手応えも残らない。ただ“無”だけがそこにあった。
「えっ……? い、今……消えましたよ!? ほら、持ってたのに……!!」
少年の手は小刻みに震え、声も裏返っていた。掌を何度も見つめ、まるで目を疑うように10度見くらいしていた。
……やっぱり。ノートに書いた物全て消えるんだ──
怖くもあり、驚きもあり、ワクワクもあった。これで、この世界が変わってしまうかもしれないと言う責任感を抱きながら、目の前にあった物が消えた。ということを噛み締めた。