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第71話 〚夏休み、波の音と通知音〛(澪視点)
夏休みが始まった。
カーテン越しの光が、
いつもより少し眩しい。
澪は実家のリビングで、
机に向かっていた。
ノート。
教科書。
そして――英語。
(……やっぱり、分からない)
単語を見て、
ため息をひとつ。
昔から、
一番苦手な教科。
消しゴムを持ったまま、
止まっていると。
――ピロン。
スマホが震えた。
画面を見る。
『今、何してる?』
海翔からだった。
少し迷ってから、
澪は打つ。
『英語の課題……』
すぐに返信。
『それは地獄だな』
『気分転換しよ』
次のメッセージに、
澪は目を丸くした。
『今日、海行かない?』
一瞬、
胸が跳ねる。
(……海)
返事を打つ前に、
さらに通知。
『玲央と、えま達も来る』
その一文で、
澪は少し安心して、
小さく笑った。
『行く』
短い返事。
――でも、
心は軽くなった。
午後。
集合場所に着くと、
もう皆そろっていた。
「遅いー!」
えまが、タオルを振る。
「澪、英語は?」
しおりが聞く。
「……見なかったことにした」
澪が言うと、
みさとが吹き出した。
「それ大事!」
玲央は、クーラーボックスを持ちながら、
さらっと言う。
「熱中症対策、ちゃんとしろよ」
海翔は、
澪の横に来て、小さく言った。
「来てくれてよかった」
澪は、
少し照れて、頷いた。
海は、
想像よりずっと青かった。
波の音。
砂の感触。
太陽の光。
えまは、
真っ先に海に突っ込む。
「冷たっ!」
しおりは、
写真を撮り始める。
みさとは、
澪の手を引いた。
「ほら、行こ」
澪は、
足を水につけて、
思わず声を上げた。
「……つめたい」
海翔が、
少し笑う。
「夏だな」
しばらく遊んで、
砂浜に座る。
飲み物を飲みながら、
皆で他愛ない話。
玲央が言う。
「こういうの、久しぶりだな」
「ね」
澪が答える。
気づくと、
頭は痛くない。
予知も、ない。
でも。
(今、楽しい)
それだけで、
十分だった。
帰り道。
澪は、
少しだけ振り返る。
海。
夕焼け。
英語の課題は、
まだ終わっていない。
でも。
(また、頑張ればいい)
そう思えた。
スマホを見ると、
海翔から、もう一件。
『今日はありがとな』
澪は、
少し考えてから返した。
『……楽しかった』
その一言に、
胸が、静かに温かくなった。
夏休みは、
まだ始まったばかり。
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