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第72話 〚夏の予感〛(澪&海翔)
夕方の風は、
昼の暑さを少しだけ残していた。
海から帰ったあと。
澪は、自分の部屋でベッドに座り、
スマホを手にしていた。
――ピロン。
『ちゃんと家着いた?』
海翔からのメッセージ。
澪は、少しだけ考えてから返す。
『うん。シャワー浴びた』
すぐに返信が来る。
『日焼け大丈夫?』
その一言に、
澪は思わず画面を見つめた。
(……気にしてくれてる)
胸の奥が、
じんわり温かくなる。
『ちょっと赤いけど平気』
『それならよかった』
短いやり取り。
なのに、
心が落ち着く。
澪は、
スマホを握ったまま、
天井を見上げた。
(海翔と話してる時、安心する)
それは、
前から感じていたこと。
でも今日は、
少しだけ違った。
――意識してる。
数分後。
『今日、楽しかった?』
海翔からのメッセージ。
澪は、
一瞬、指が止まる。
(……同じ気持ち)
『私も』
送信。
しばらくして、
通話の着信が鳴った。
「……もしもし」
『急にごめん』
海翔の声は、少し低い。
「ううん」
少しの沈黙。
『海でさ』
海翔が言う。
『澪、笑ってたじゃん』
「……うん」
『あれ、好き』
心臓が、
どくん、と跳ねた。
「……急に、何言ってるの」
声が小さくなる。
『思ったこと』
海翔は、素直に言う。
『言いたくなった』
澪は、
返す言葉を探して、
でも、正直に言った。
「……私も」
『え?』
「海翔といると」
澪は、息を整える。
「夏が、楽しい」
通話の向こうで、
小さく笑う気配。
『それ、嬉しい』
窓の外。
蝉の声。
夏の音が、
二人の間を包む。
『また、遊ぼ』
海翔が言った。
『今度は、宿題も』
「……それは、覚悟する」
二人で笑う。
電話を切ったあと、
澪は、胸に手を当てた。
予知は、ない。
頭も、痛くない。
でも。
(分かる)
この気持ちは、
もう、妄想でも未来でもなくて。
――今。
夏の始まりに、
静かに芽生えた、確かな予感。
澪は、
そのまま目を閉じた。
少しだけ、
次の日が楽しみになりながら。
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