コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
*****
たまには嫉妬されたい、なんて馬鹿なことを言った罰だろうか。
それとも、馨に操を立てられる男かを試されているのか。
玲と別れた一時間後。
俺は自分のベッドの上で、両手を背中で縛られていた。ネクタイで。
「馨、落ち着け」
馨は俺に跨り、無言でシャツのボタンを外していく。
「馨!」
ボタンがすべて外され、馨の細い指が腹に触れた。ゆっくりとシャツをめくっていく。指が腹から胸に上がってきて、鎖骨、肩に流れる。
たったそれだけなのに、全身の毛が逆立ち、触られていない下半身に興奮が集中する。それに気づいたのか、馨は腰をずらした。
馨の指が肩から腕に下り、一緒にシャツが腕まではだける。
「玲とはたまたまBarで会っただけだ」
聞く耳を持たず、馨は無表情で胸を撫で回す。
「馨!」
左の乳首を指で弾かれ、快感に思わず目を目を瞑る。右の乳首がぬるりと柔らかくて温かい感触に包まれ、今度は目を見開いた。
「やめ――」
チュウッと吸われて、興奮が膨張し、痛いほど窮屈になる。
馨の手が脇腹を撫で、背中に触れ、腹を這う。くすぐったさと気持ち良さに身体が強張る。
唇が乳首を離れ、鎖骨に触れる。首筋と耳たぶにも。
「かお……るっ――」
馨の唇が顎や頬に触れる。同時にカチャカチャとベルトが外される。フックが外れ、ファスナーが下ろされ、少し楽になった。
もどかしかった。
馨の唇は幾度となく俺の皮膚に吸い付き、舌を這わすのに、唇には触れない。
同じように、上半身は余すところなく撫で回すのに、撫でて欲しくてたまらないトコロには触れない。
「馨!」
「やめてあげない……」
「玲とは本当に偶然――」
「偶然会ってキスするの?」
肩に鋭い痛みが走る。馨が噛みついた。
「だから、違うって――」
「キスじゃないなら、どうして唇に口紅がつくの?」
「それは――」
今度は左胸に鈍い痛み。くっきりと痕が残るほど強く、吸い付かれる。
「雄大さんは私のでしょう?」
パンツの上から触れられ、快感にまた膨張する。
「やめ――」
「ホントにやめて欲しい……?」
強引にパンツを引き下ろされ、窮屈で身を屈めていたモノが、開放感に大きく伸びをする。
「馨!」
ネクタイを緩めようと腕を捩る。
「ダメだ――」
いくら言っても馨は止められず、俺のモノは彼女の口の中に姿を消していった。
「――くっ……」
柔らかくて温かい馨の舌が、アイスクリームでも舐めるように俺を味わう。
快感はもちろんだが、その姿を見ているだけで、いつでもイケるほど興奮した。
「マジで……ダメ……だっ――」
先端を舌で転がされ、液が滲みだしてくるのがわかる。
ヤバい……。
我慢も限界だった。
口の中で出すのは避けたくて我慢していたが、容赦なく責め立てられ、苦しくて堪らない。
「馨……もう――」
もうダメだと諦めかけた時、一気に快感が冷めた。
馨が口を離し、顔を上げる。
「はっ――……、は……」
浅く早い呼吸を整える。
「イッちゃったらお仕置にならないでしょう?」
「は……?」
「一生そばにいろ、なんて言っといて、浮気するような男には、お仕置れす……」
ようやく、気がついた。
「お前、酔ってるだろ!」
「はぁ? 酔ってないし!」
徐々に酔いが回ってきたのか、頬が紅潮し、目が虚ろになってきた。
「仕事してたんじゃないのかよ」
「してましたよ」
「じゃあ、なんで――」
「課長が……お疲れって……一杯……」
眠そうに瞼がゆっくりと閉じ、またゆっくりと開く。
キスしてないから、馨が酔っていることに気がつかなかった。
「一杯で酔うかよ?」
「うっさい! 浮気したくせに!!」
「してねーって! 事故だよ、事故! ちょっとぶつかっただけだ!!」
「そんな漫画やドラマみたいなことがあるわけないし! つーか、偶然元カノに会って事故とか……」
怒っていたと思ったら、泣き出した。
「浮気しないって……言ったのにぃ……」
後ろ手に縛られて、剥かれて、撫でられて、舐められて、怒られて、泣かれて。
最高に情けない。
なのに、俺の浮気を疑って子供みたいに泣いている馨が、可愛くて堪らない。
抱き締められないのがもどかしい。
イく寸前で放置されている状態も、苦しい。
「馨、ネクタイ外してくれ」
簡単に外れると思っていたが、いくら捻っても緩みもしない。
酔ってたから力いっぱい結んだな。
「ヤだ」
「なんで」
「お仕置らも……」
「つーか、浮気なんてしてねーし! 信じろよ」
「信じないもん」
「なんで」
「雄大さんが私なんかで……満足するはずないもん……」
止まっていた涙が、また溢れ出す。
「雄大さんなんか……嫌い」
馨が俺の首に抱きつく。
「大っ嫌い」
信用ねーなぁ……。
「俺は好きだよ」
首を回して、かろうじて届いた馨の耳にキスをする。
「馨が好きだ――」
「う……そぉ……」
「嘘じゃない」
「浮気……したも……」
キスをせがむように、馨が頬を寄せてくる。頬や首筋にキスをする。唇に届かないのがもどかしい。
「してないって」
「口紅……ついてた……も……」
「事故だって」
耳たぶを噛むと、馨の身体がぴくっと反応した。
「ネクタイ、外せよ」
「……」
「抱きしめたい……」
「…………」
眠ってしまったのかと思った。
一晩このままなんて、さすがに耐えられない。なんとかネクタイを外そうと腕を捻った時、ぴったりと張り付いていた馨の身体が離れた。
俺の上から降りて、背後に回る。少し前かがみになって、馨に腕を突き出した。
外そうともがいたせいで結び目がきつくなったらしく、なかなか外せずにいる。酔っているからなおさらだろう。
「馨、そこの引き出しの二番目にハサミが入ってるから、切れ」
「え?」
「早く」
「けど……」
「いいから」
馨は言われた通りにサイドテーブルの引き出しからハサミを出し、腕の間に刃を差し込んだ。
ザクッと数回音がして、ようやく腕が自由になった。
「ごめんなさい……」
馨がしょげた顔で言った。
「おいで」
俺は馨の腰を引き寄せた。
「好きだよ」
ぴったりと抱き合って、唇を重ねる。珍しく馨から舌を絡ませてきた。
最初にこうしていれば、馨が酔っていることにすぐに気がついただろう。
キスに感じたのか酒のせいか、馨の潤んだ目は俺を求めているようにしか見えない。
生殺し状態で放置された下半身がビクンと硬直した。
一秒でも早く、挿入りたい。
俺は馨の上に覆い被さると、キスをしながら彼女の服を脱がせた。
脚の間に指を這わすと、既に湿っていた。
焦る気持ちを押さえて、襞を撫で、入り口に指を押し当てる。
「んっ……」
膣内は熱く、柔らかく、きつかった。
「あっ……あっ――」
「馨……」
「雄大……さ……」
馨の甘い声で名前を呼ばれると、理性の意味も忘れてしまうほど興奮する。
「悪い。もう無理」
サイドテーブルの引き出しの一段目からゴムを出し、手早く着ける。馨の脚の間に座り、挿れようと入り口に押し当て、止めた。
「なぁ?」
「……?」
「上に乗るのと後ろから、どっちがいい?」
「へっ?」
それまで気持ち良さそうに目を細めていたのに、馨の目が大きく見開く。とてもセックスの最中とは思えない。
「他のでもいいけど――」
「ちょ――。何言って――」
「いや、いつも普通のだから……」
「普通でっ! いいと思い……ま……す」
言って、恥ずかしくなったらしく、声がフェードアウトしていく。
「普通で、いいの? 普通が、いいの?」
『で』と『が』を強調して、聞く。
馨が両手で顔を隠し、身体を丸めて横を向いた。
「聞かないで……」
「じゃあ……、とりあえず後ろから――」
「やだ!」
「は?」
「後ろからはやだ……」と言いながら、枕を抱き締める。
「何で?」
「痛い……から……」
痛い……。
一瞬、馨が顔もわからない男に後ろから責められている姿を想像してしまった。ムカつく。
元カレでは痛くても、俺では気持ちいいかもしれない……。
試してみたかったが、涙目で枕を抱き締める姿を見ては、言えなかった。
それはまた今度だな。
焦らなくても、これからはずっと一緒だ。いつでも抱けるし、いつでも試せる。
「じゃあ、乗って?」
馨は俺の顔を見て、何やら考え込む。
「ダメ?」
馨が枕に顔を埋めて何か呟いた。全く、聞き取れない。
「何?」と聞きながら、顔を近づける。
不意に、馨が俺の首に腕を回してきた。
「ぎゅって……してくれる……?」
反則だろ――。
馨を抱き上げ、腰の上に跨らせる。無意識に腰を浮かせて、俺が痛くないように膝で立つ。
「そのまま座って」
俺は馨が受け入れてくれるのを直立不動で待っていた。
数秒、見つめ合う。
馨からキスをして、同時に俺を呑み込んだ。
すげー……、深い……。
馨も同じことを思ったようで、しばらく動かずにいた。
深く繋がったまま、舌を絡ませて夢中でキスをする。
次第に、少しずつ馨の腰が揺れだした。
微かな快感がもどかしくて、気が急く。
馨の動きに合わせて腰を突き上げる。より深くに自身を沈め、馨の温もりを堪能する。
少しずつ速度を上げ、強さを増し、揺れる彼女の胸を咥えると、膣内がぎゅうっと狭くなった。
「あん……ま……締めんな……」
「だ……って――」
気づけば互いに、夢中で腰を振っていた。
「やっ……! ダメッ――!」
馨の動きが鈍くなり、膣内が痙攣する。少し待ってやりたかったが、身体が言うことを聞かない。
「も……、だめぇ……」
「俺も――」
「好きぃ……」
完全に不意を突かれ、音速で沸点に到達した。
良過ぎだろ――。
『好き』なんて言葉一つで、こんなに違うと思わなかった。
これまでも、イケば満足感はあったし、セックスなんてそんなもんだと思っていた。けれど、『これ』はまるで違う。
幸せ、ってこういうのを言うんだな……。
一週間分の我慢が解放され、意識を失いかけている馨を揺さぶり続け、ようやく眠りについたころにはカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。