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鷹槻れん

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鷹槻れん

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#強引
#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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『第二十九話 また会えますよね』
──
「……今まで、どこ行ってたんですか?」
花村生花店の奥にある休憩室。
千夏は花村さんから借りた服に着替え、髪にタオルを巻いていた。
そして、向かいの椅子に座る悠真を少し怒った顔で見つめている。
「アパートを出てから、ここに?」
「うん。次の住まいが決まるまで、花村さんに二階の部屋を借りてた」
「……花村さんと?」
千夏の目が、ちらりと花村さんを見る。
「同棲してたんですか?」
「ち、違います!」
温かいお茶を運んできた花村さんが、即座に否定した。
「お店が閉まったら私は隣町の家に帰ります!佐藤さんは、ここの二階。ちゃんと別々ですっ!」
「そうそう! 別々だからっ!」
悠真も慌てて否定する。
「……そうなんですか」
千夏は、少しだけ安心したような顔をした。
「それで今日、引っ越す予定だったんだ」
悠真が答える。
「新しい仕事も決まったから」
「仕事?」
「群馬の会社なんだ。昔、僕がお世話になった人が独立してね。前から誘ってもらってた」
千夏は黙った。
悠真が、自分の知らないところで少しずつ新しい生活を準備していた。
「……転職を決めたのも、千夏ちゃんのおかげなんだ」
「…………」
「燻ってたけど、頑張ってる君を見て……自分を変える決心がついた」
「……そうですか」
それだけ言うと、千夏は目を伏せた。
「今夜、群馬へ行くつもりだったんだけど……」
「ピスカも?」
「大家さんから、さっき引き取ってきたところ」
悠真がキャリーバッグを見る。
ピスカは中で窮屈そうに体を丸めて眠っている。
「……じゃあ」
千夏が顔を上げた。
「私が来なかったら、そのまま行ってたんですか?」
「……うん」
「そうですか……」
「もちろん、千夏ちゃんの受験が落ち着いたら、きちんと連絡するつもりだったよ」
千夏は、また俯いた。
少し寂しい。
けれど、それはもう悠真が決めた道なのだ。
「今日は、もう遅いから。群馬へ行くのは明日にするよ」
悠真が小さく笑った。
「そうなんですね……」
それから体が温まるまで、千夏は生花店の休憩室で過ごした。
──
花村さんは時計を見上げた。
「千夏ちゃん。今日は私が家まで送るから」
千夏は家に帰りたくなかった。
「でも……」
「大丈夫。お母さんも待ってると思うよ」
花村さんは、生乾きの千夏の服をたたみながら言った。
「それに、お母さんは君のことを本当に心配していると思う」
悠真も優しく微笑んだ。
「そんな……お母さんは、自分の都合しか考えてないです」
「そんなことない」
悠真は、少し厳しい口調で言い切った。
千夏はしばらく黙っていた。
やがて、小さく頷く。
「明日は見送りに行きます」
「別にいいよ。学校もあるんだろ?」
「群馬行き、夕方にしてください。学校終わったら行きます!」
「……わかったよ」
悠真は花村さんと顔を合わせ、困ったように笑った。
──
家に着くと、母は玄関に立っていた。
花村生花店でアルバイトをしていたことは、母も知っている。
丁寧に挨拶をする花村さんに、母親は恐縮したように何度も頭を下げた。
そして玄関の扉が閉まる。
千夏と母は、すぐには何も言えなかった。
長い沈黙のあと。
「……ごめんね」
母が言った。
「お母さん……」
「あなたを守りたかった。でも、 あなたの気持ちを聞こうとしなかった」
千夏は唇を噛んだ。
「……私も、ごめん」
それだけ言って、二人はそれぞれの部屋へ入っていった。
完全に分かり合えたわけではない。
それでも──
空っぽの部屋にいた時より、少しだけ距離は近くなった。
──
翌朝。
教室に入ると、結衣が飛んできた。
「千夏!」
「おはよう」
「……あのさ」
結衣が申し訳なさそうに頭を下げる。
「私、はしゃぎすぎた」
「え?」
「西東京、受かったって分かったとき。自分ばっかり喜んじゃった」
「結衣さん……」
「千夏だって、いっぱい頑張ってたのに」
千夏は少し黙ってから、笑った。
「いいよ。結衣さん、悪くないし」
「本当に?」
「うん。結衣さんが合格したの、私も本当に嬉しかったから」
「千夏ぅ……!」
結衣が抱きついてくる。
「ちょ、苦しい!」
いつもの教室。
いつもの二人。
でも、千夏の胸の中には、まだ空白があった。
「ねえ、千夏」
結衣が離れて尋ねる。
「これから、どうするの?」
「……まだ決めてない」
浪人するのか。
教師になる夢を諦めるのか。
専門学校へ進むのか。
今からでも入れる大学を探すのか。
答えは出ていなかった。
「そっか」
結衣は少し考えてから、笑った。
「でも、千夏ならどんな道でも大丈夫だよ」
「……どうして?」
「だって千夏って、最強だから」
「何それ」
千夏は笑った。
久しぶりに、少しだけ自然に。
──
そして夕方。
東京駅、上越新幹線のホームに悠真と千夏、そして花村さんの三人が立っていた。
「佐藤さん……群馬の冬は寒いそうですから、体に気をつけてくださいね」
花村さんは、ぽろぽろと涙をこぼしながら悠真の手を握っている。
「花村さんもお元気で。お世話になりました」
悠真は少し困ったように笑った。
そして千夏を見る。
千夏は少し不機嫌そうな顔で視線を逸らしながら言った。
「お兄様、昨日みたいに大泣きすると思ってました?」
「いや……」
「でも、泣いたらスッキリしました……お母さんとも少し話せたし」
悠真の顔が明るくなる。
「そうか。よかったな」
「もう大人ですから」
悠真は少し笑って、千夏に一歩近づいた。
「大人ってさ、年齢を重ねたり、学校を卒業したら勝手になるもんじゃないんだよ」
「……?」
「自分が納得して、大人になったと思った時点で大人になるんだ」
「…………」
千夏は少し俯いて考え込んだ。
──私、納得した?
いや、まだしていない。
悠真の手が、千夏の頭に置かれる。
「千夏ちゃん」
「……はい」
「大人になるのは、急がなくていい」
急に目頭が熱くなった。
「お兄様……」
千夏は顔を上げた。
「また会えますよね?」
涙が頬を伝う。
それでも、笑顔だった。
作り笑いではない本当の笑顔。
悠真にもそれがわかった。
「もちろん」
キャリーバッグの中から、ピスカの鳴き声が聞こえた。
「にゃあ」
「ピスカもそう言ってますね」
「そうだな」
やがて、新幹線の発車を知らせるアナウンスが響く。
悠真はキャリーバッグを肩にかけ、乗車口へ向かった。
千夏と花村さんは、その背中を見つめていた。
新幹線の扉が閉まる。
ゆっくりと車体が動き出す。
「お兄様!」
千夏が手を振った。
悠真も手を振り返す。
小さくなっていく新幹線を見ながら、千夏は最後まで手を振り続けた。
──
そして千夏は、まだ知らなかった。
この別れが、自分の新しい人生へ向かうための一歩になることを。
──続く
コメント
3件
書き直しました。 旧版の面談からのシーンは次回に回します。 このコメント欄でリオンさんが盛大にネタバレしちゃってますけど、気にしないでください😅
長くなりました😅 もしかしたら分割して書き直すかも。 うーん、次で完結は厳しくなってきました。少し伸びます🙇
第二十九話、読了です。悠真さんとの別れと、千夏ちゃんが「自分で決める」までの揺れが丁寧に描かれていて、特に路木さんの「自分で自分を諦めるのだけはやめろ」が胸に刺さりました。大阪への不安よりも、周囲の言葉を糧に立ち上がる姿にグッときます。母との距離も少し縮まって、この先の受験がどう転ぶか気になります。「大人になるのは急がなくていい」も、ずっと残る台詞です。