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 尾鰭をいつも以上に激しく振って、前を泳ぐヒットは時折振り向いては、よろめくナッキを見て満足そうに笑って見せる。

 いつもならヒットを嗜(たしな)める筈の、優しいオーリまでがヒットと並んで前を泳ぎ、揶(からか)う様に尾鰭を振ってナッキの泳ぎを邪魔してくる。


「もう、二人とも、やめておくれよぉ! このままじゃ僕ってば、てんで思い通りに泳げやしないよぉ」


 ナッキはそう言ったつもりだったが、何故か声には出せずによろめき続けるしかなかったのである。

 そうしている内に、ヒットとオーリ二匹の尾鰭は更に激しさを増し続けて行き、遂にナッキは川縁(かわべり)に押し付けられる形で全く動けなくなってしまうのであった。


――――今日は一体どうしたって言うんだろう? ヒットばかりかオーリまで…… ああくたびれちゃったよ、動けないし…… もう、どうしようも無いや…… そうだ、いっそこのまま眠ってしまおう……


 そう思ったナッキが、ゆっくりと目を瞑って眠りに就こうとしたその時、尾鰭を振ったままでヒットが厳しく言う。


「駄目だ駄目だナッキィっ! 今、眠ったりしたらそのまま起きれなくなっちゃうぞ? 頑張れ、起きるんだナッキィっ!」


 その声を聞いた瞬間ナッキは目を覚ました。

 頭部に激しい痛みが残っていたし、腹も尾も所どころ怪我を負っているらしい感じだが、何とか鰭を動かす事は出来るようだ。


 腹を川面に向けて流されていたナッキだったが、取り敢えず体を回転させて正しい姿勢に戻した。

 続けて首を左右に動かして、自分の体を確認したが、左側の鱗が大分捲れてしまっているのが目に入る。


 ナッキはがっくりと落ち込みながら小さく溜め息を吐くのである。

 綺麗に生え揃った銀と黒のキラキラ輝く鱗が、ナッキ達銀鮒達にとっては一番の自慢だったのだから、落胆は当然の事と言えるだろう。


「どこで捲れたって言うんだろう? 又、生え揃うのを待つしかないのかぁ、嫌になっちゃうなぁ、あーあ…… ところでぇ…… ここは?」


 キョロキョロと今度は周囲を見渡したナッキだったが、確かにここは川の中の筈なのに、どれほど目を凝らして見ても、流れの左右に川縁が見えなかったので、首を傾げて不思議そうに呟いた。


「こんなに川幅が広い場所は知らないぞ? 一体どうした事だろう?」


 未だ体のあちらこちらにズキズキと痛みを感じていたナッキだったが、よし、っと気合を入れると周りを確認する為に、思いきって川面から大きく跳ね上がってみた。


 跳躍が頂点になった時、ナッキは体を大きく反らせて左右の景色を見渡せる限り視認した。

 鍛え抜かれた鰭の力で、ナッキの跳躍は大人の鮒よりも随分高い。

 胴体部が小さい事も相まって、滞空時間も誰よりも長く、いつもの川では誰よりも遠くまで見通すことが出来たのだが……


 今のジャンプで見た限り、左右揃って岸を見る事が出来なかったのである。

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

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