テラーノベル
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着水したナッキは興奮したように叫んだ。
「うわぁ、なんて大きい川なんだろうか! いつのまにこんな所に来てしまったんだろう? 不思議で仕方ないや! ねえ、君たちもそう思うだろう、ヒット! オーリ!」
そう言って周りを見回して、漸(ようや)くナッキは自分の置かれた状況を理解する事が出来た。
つい今しがたまで、ナッキの傍(そば)で尾鰭を動かしていた二匹の姿はどこにも無く、代わりにナッキが思いだした光景は、濁流に流されながら最後に目にしたヒットとオーリの泣き叫ぶ姿だったのである。
「っ!」
ナッキは急に慌てた様に方向転換をして、上流に向かって一所懸命に泳ぎながら思った。
――――頭に何かが当たって気を失ってしまったに違いないっ! それで、流されてしまったんだっ! こ、こんなに川幅が広いなんて、もう随分下流なんじゃないかな? い、急いで戻らないと……
傷を負った体に鞭打つように、必死に泳ぎながらナッキは思った。
これ以上流されては駄目だと。
ナッキは学校の授業で習って知っていた。
川を流れ下ると川幅は大きさを増していき、いずれ『海』に出ると教師役の鮒が言っていた。
授業では『海』の事について詳しくは教わってはいなかったが、一度オーリに聞いた所では、とても恐い所だと彼女は言っていた。
いつもの様に親達が言っていたのを聞いただけだとも付け加えてもいたのは記憶に新しい。
改めて周囲の状況や周りの景色を意識して更なる不安がナッキを襲った。
――――口に入る水は塩辛くない、と言う事は『海』ではなくて、まだ、川なんだ! でもでも、もう薄暗くなって来てしまってるじゃないかぁ! 夕方なんだ! このまま、夜になったら…… ひええ!
上流へと急ぎながら、ナッキは抜かりなく周りの川底にも目を光らせ続けていた。
しかし残念な事に、この場所に彼の望む景色を見る事は出来なかった。
この辺りの川底には大きな石が敷き詰められたように並んでいる。
小さい物でもナッキの体の五倍はあろうかという巨大な石だ。
――――流石にこの石には潜れない、仮に潜る事が出来たとしてもきっと潰されてしまうだろうし……
せめて今日の夜を無事に済ませる為にも、流れが緩い場所を見つけるか、覚えると誓った体を隠すのに丁度良い大きさの砂利を見つけなければならないが、川底の石は意地悪にこれまでと変わらず、大きさを保ち続け、その間にも、辺りはとっぷりと暮れ始めている。
傷ついた体ではいつまで泳ぎ続けられるか判りはしない、そう危機感を覚えたナッキの観察は一層素早く鋭い物へと変わって行った。
不意に、遡上するナッキの目に、この大河の脇から一本の小川が流れ込んで来ているのが、飛び込んできたのである。
ナッキは瞬時に考えを巡らすのであった。
――――小さい川なら、ここより小さめの砂利があるかも知れない…… 体の痛みも増してきてるし迷っている場合じゃないな、良しっ! 行ってみよう!
そう覚悟を決めて、ナッキは左から流れ込んでいたその小川に躊躇なく舵を切ったのだった。
川幅が狭くなれば水の勢いは更に強まるかもしれない、そんな不安を掻き消す為か、思い切って動かしたナッキの鰭は、今迄で一番激しく水を掻き、猛烈な速度で小さな鮒の姿を小川の中へと消えさせたのである。
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