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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第3話 〚守る側の違和感〛(海翔)
朝の校門前。
いつも通りの時間。
いつも通りの景色。
それなのに――
橘海翔は、胸の奥に小さな引っかかりを感じていた。
「おはよ、澪」
声をかけると、
澪は少し遅れて振り向いて、微笑んだ。
「おはよう」
その笑顔は、変わらない。
柔らかくて、穏やかで。
でも。
(……なんだ?)
説明できない。
けれど、確実に“前と違う”。
澪は前より、
少しだけ周りを気にしている。
廊下を歩くときも、
教室に入るときも、
無意識に背後を確認しているみたいだった。
「……何かあった?」
思わず、そう聞いてしまう。
澪は一瞬だけ目を瞬かせて、
すぐに首を振った。
「ううん。何もないよ」
――嘘じゃない。
でも、全部でもない。
海翔には、そう分かった。
授業中。
澪がノートを取る横顔を見ながら、
海翔は過去を思い出していた。
前は、
何か起きる前に澪が“知っていた”。
頭痛。
遠くを見る目。
そして、未来を避ける行動。
(……今は、それがない)
つまり。
何か起きても、
澪は“分からないまま”巻き込まれる。
それに気づいた瞬間、
背中に冷たいものが走った。
(守るって……)
今までは、
“分かっている澪”を支える立場だった。
これからは違う。
“分からない澪”を、
先回りして守らなきゃいけない。
でも。
(俺は、未来が見えない)
昼休み。
購買から戻る途中、
人混みの中で澪の姿を見失いかけた。
「……澪?」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ、
胸が、ぎゅっと掴まれる。
すぐに見つかったのに、
心臓は、なかなか落ち着かなかった。
(もし、今、誰かが――)
考えただけで、
手のひらに汗がにじむ。
放課後。
澪が友達と話している間、
海翔は少し離れた場所から周囲を見る。
――いる。
恒一。
視線が合った気がして、
海翔は無意識に澪の前に立った。
その瞬間、
恒一は何もなかったように視線を逸らす。
(……気のせい、か?)
でも、
気のせいにしていい違和感じゃない。
帰り道。
澪と並んで歩きながら、
海翔はふと足を止めた。
「澪」
「なに?」
「……もしさ」
言葉を選ぶ。
「何かあったら、
すぐ言って。小さなことでも」
澪は少し驚いた顔をして、
それから、優しく笑った。
「うん。ありがとう」
その返事に、
胸があたたかくなるのと同時に――
怖くなる。
(……守れるかな、俺)
未来は見えない。
相手の考えも、完全には分からない。
それでも。
海翔は、
澪の手を、そっと握った。
「離れないから」
独り言みたいな声。
澪は少し照れたように、
でも、しっかりと握り返してくれた。
その温もりが、
決意に変わる。
(俺が、盾になる)
その夜。
ベッドに横になっても、
海翔はなかなか眠れなかった。
守る側になるって、
こんなに怖いんだ。
――失う未来を、
想像できてしまうから。
でも。
(それでも、選ぶ)
たとえ、
予知がなくても。
たとえ、
間に合わない可能性があっても。
「……絶対、守る」
暗闇の中、
その言葉は、静かに確かに――
覚悟として刻まれた。