一覧ページ

めんどくさがりの魔法学校！

第3話 - 第3話

1,012

2023年01月06日

#ワイテルズ

#我々だ

#ら運営

Chara@Mammy🦄👊

菜乃葉と美音。二人の身体は重力から解き放たれ、ふわりと浮き上がる。足は地面から離れ、徐々（じょじょ）にその距離が開いていく。

菜乃葉

「な、なにこれ…」

美音

「しっかり手を繋いでてね！」

美音がそう言うと、二人の身体は上空へ加速していく。風を切りながら、空高く舞い上がる感触。地に足がついていない浮遊感（ふゆうかん）が菜乃葉を包む。

たちまち地上は遠くなり、さっき話したおじさんも、もう小さくしか見えない。ぽかんと口を開いている男に手を振り、美音は大きな声で別れを告げる。

美音

「行ってーきまぁーす！」

菜乃葉

「ちょ、まｯ」

少女の歓声を背景（はいけい）に、美音は更にグングンと高度を上げる。地上を遥か遠くに置き去りにしてて、高く、高く。飛んでる鳥を追い越し、低い雲を突き抜けて更に遠く、見晴らしの良い高さに。そこまで来てようやく美音は上昇（じょうしょう）を止め、二人の身体を水平飛行（すいへいひこう）に移行させた。

美音

「こんなとこかな。ほら菜乃葉ちゃん、よく見えるでしょ？！」

菜乃葉

「うん……見える……すごい、ね…ｳｯ」

この高さから見える景色は格別（かくべつ）だ。青く澄み渡った空。日の光をキラキラと反射する、広大な湖。その中心で幻想的な光を放つ、ハリコルオン魔法学校。鳴き声をあげながら鳥が飛び交い、魚が水面を跳ねる。美しい景色を見下ろしながら、全身で風を感じて飛んでいく。

美音

「私たち飛んでるでしょ！　本当に、本当に飛んでる！始めてコピーしたから不安だったけど！」

目を輝かせ、興奮に頬を赤らめる美音。美音の所持魔法のコピー魔法はストックした魔法を何時（いつ）でも使える。

美音はしばらく笑い声を上げた後、少し落ち着くと、菜乃葉に満面の笑みで笑いかけた。

美音

「菜乃葉ちゃんどう？！とっても綺麗（きれい）！」

菜乃葉

「うん…そう、だね…」

美音の笑顔の眩しさに、同性なのに心臓がドキッと跳ねる。動揺を隠すように、菜乃葉は努めて何でもない調子で答えた。

菜乃葉

「魔法がこんな綺麗なのは生まれてはじめて…」

美音

「ねえ、菜乃葉ちゃん。私、この景色より綺麗な魔法が使えるかな？」

菜乃葉

「学校で使えるようになるでしょ…（もう十分凄いと思うけど）」

美音

「そっかぁ、嬉しいなあ。学校で魔法を習うの、今からすっごい楽しみ！」

菜乃葉

「……ソウダネ」

無邪気（むじゃき）に笑う美音に、菜乃葉はカタコトに返事を返した。菜乃葉はこの学校に来たのは大好きな弟から押されてここに来ただけだからだ。

『学校に行けよ！俺等もいるからさ！』

前に弟から言われた言葉が菜乃葉の頭に浮かんだ。

湖の中心にあるハリコルオン魔法学校に到着するのに、それほど時間はかからなかった。近づくと、光の半球ドームの外側にはみ出すように設置された船着場（ふなつきば）が見えてくる。周囲に人影がないことを確認しながら、美音は徐々に高度を下げていき、静かに船着場の上に降り立った。

美音

「とうちゃーく!!!!」

菜乃葉

「ありがと」

美音

「どいたま!!!」

ニコニコと答える美音に、菜乃葉は軽く頷いた。菜乃葉は酔いが酷かったので光魔法の一種、回復魔法をかけておいたのだが、どうやら美音にも効果があり、泣き腫（は）らし赤くなっていた目元も、疲労の色が強かった顔色も、今やすっかり健康的に治っている。傷みのあった髪もツヤが戻っているから、そのうち違和感を覚えるかもしれないけど……この様子なら大丈夫だろう、多分。菜乃葉は軽く流すことにした。

菜乃葉

「でも美音すごい、　入学前なのに、飛行魔法を使えるから」

美音

「あー…コピーしたんだ！他の人の！」

菜乃葉

「へぇ」

とりあえず二人は入場門をくぐり、新入生受付に向かった。

「こちらはハリコルオン魔法学校の入学手続き会場です。新入生の方ですか？」

美音

「はい！」

「……二人ともですか？それとも恋人の見送りですか？」

係員の生暖かい視線は、二人の繋いだままの手に注がれている。たしかにな、と菜乃葉はどこか他人事のように思った。同性愛が許されるこの世の中、入学手続きにくるのは、どこかで魔法学校の入学資格を得た人間に限られる。しかし、入学資格を得る人間は稀だ。知り合いや恋人が同時に入学資格を得るケースは、（貴族以外では）ほぼ無い。この体勢では恋人同士に見えなくもないし、「恋人が見送りに来た」と思われても不思議ではない。

菜乃葉も、手を繋いだままである事には気がついていた。しかし、美音がギュッと握っている手を振り解くわけにもいかず、放置していた。

美音

「ちっ、ちちち違います！　二人とも入学希望です！」

美音は顔を真っ赤にしながら手を離すと、慌てて懐から入学願書（にゅうがくがんしょ）を取り出す。菜乃葉もそれにならって入学願書を取り出し、二人で係員に願書を手渡す。

「失礼、確認しました。それではこちらの方は一番の列、そちらの方は五番の列にお並び下さい」

係員は願書に目を通すと、美音と菜乃葉、それぞれに並ぶ場所を案内した。願書に記載（きさい）されている番号によって、事前に受付場所が振り分けられていたようだ。

美音

「また後でね！菜乃葉ちゃん！」

菜乃葉

「…バイバイ」

二人は手を振り合うと、それぞれの列に向かって歩き出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー