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僕は、諦めきれずに再び小銭を投入した。
◆◇◆◇
それから数分後
「うう、全然取れない……あと少しなのに…」
何度チャレンジしても、キーホルダーはクレーンからするりと逃げていく。
小銭はもう200円札しかない。
焦りと、少しの恥ずかしさが込み上げてくる。
(岬くんも見てるし……恰好悪いとこ見せたくないな)
そう思った瞬間、後ろからぬっと、温かくて長い腕が伸びてきた。
「貸してみ」
岬くんの声が、僕のすぐ後ろから聞こえる。
「へ!? み、みさきくん?」
振り返ろうとした途端──
背中に、岬くんの温かい体温を感じた。
岬くんが僕の後ろから覆いかぶさるようにして、操作レバーを握っている。
まるで、二人で一つのゲームをプレイしているみたいな距離感に
僕の心臓は一気にドクドクと高鳴った。
「……み、みさきくん……ち、近いよ…っ」
僕は、顔を赤くしながら、かろうじて声を絞り出した。
「いいからいいから」
軽く笑いながら、岬くんは僕の耳元で囁いた。
その吐息が、僕の耳をくすぐる。
「コツさえわかればすぐ取れるよ。見てて」
岬くんは手慣れた様子でクレーンを動かし始める。
迷いのない動きで、狙いを定めていく。
ボタンを押すタイミングも完璧で───
ガシャンッ、と小気味良い音が響き
白いネコのキーホルダーは、まるで吸い込まれるように穴に落ちた。
「わっ! ほんとに取れた!!」
僕は、驚きと喜びで声を上げた。
「ほらね」
落とし口から飛び出してきた白いネコのキーホルダーを手に取ると
岬くんは満足げに微笑んで、僕にそれを差し出した。
「え?…僕がもらっていいの?」
「ん、朝陽くんにあげる。欲しかったんでしょ?」
少し照れ臭くなりながらも、僕はそっとキーホルダーを受け取ると、ぎゅっとそれを握りしめた。
岬くんの温かさが、まだキーホルダーに残っているような気がした。
「あ、ありがとう……!大事にするね」
「ふふっ、どういたしまして」
岬くんの優しい笑顔に、僕の胸は温かくなった。
◆◇◆◇
ゲームセンターの喧騒の中
岬くんが僕の腕を優しく引っ張った。
「ねえ朝陽くん、せっかくだしあれやってみない?」と指さした先には
最新のプリントシール機が、カラフルな光を放ちながら僕たちを誘っていた。
「ぷ……プリクラ?」
僕は思わず声が裏返った。
今まで、男友達同士でプリクラを撮るなんてことはなかったし
いや、そもそも友達を作るのが苦手すぎて、友達がいないと言う方が正しいのかもしれない。
ましてや、恋人となんて……想像しただけで頬が熱くなった。
でも、これは岬くんと思い出を残す絶好のチャンスでもあった。
僕の心は、恥ずかしさと期待で揺れ動いた。
「いいね…僕もみさきくんと撮ってみたいかも」
僕は、意を決して答えた。
「よし、じゃあ行こ!」
岬くんの弾むような声に引かれながらも、僕はカラフルな光を放つシール機の中に吸い込まれていった。
「え、今って1回500円なんだ」
僕が驚きの声を上げると、岬くんも懐かしそうに呟いた。
「昔は300円だったのにね」
二人でお金を投入しながら、少しだけ不思議な気持ちになる。
こんなふうに岬くんと一緒にいると、ただの遊びも、特別なものに感じるのだ。
可愛らしい音楽が流れるパネルを操作し、ブースの中に入ると
荷物を置いてカメラの前に立ち位置を調整する。
緊張していると、岬くんが隣で、僕の顔を覗き込むようにしてくすっと笑った。
「朝陽くん緊張しすぎ」
「そ、そんなこと言われても……」
僕は、顔が熱くなるのを感じながら、曖昧に答えた。
カシャカシャという軽快なシャッター音とともに、フラッシュが何度も光る。
ポーズを変える暇もなく、次々と写真が撮られていく。
僕の表情は、きっと硬直しているに違いない。
「残り2枚だよ♪」という、女の子の声が流れた瞬間、突然岬くんが僕の肩を引き寄せた。
「わっ!」
ぴたりと密着した身体。
岬くんの温かさと、すぐそばで聞こえる彼の呼吸の音に、僕の頭は真っ白になった。
心臓が、耳元で激しく鳴り響いている。
すると、すぐ隣でリップ音がして、なにか暖かいものが頬に触れたかと思えば
それが岬くんの唇だと気づいた頃には、最後のフラッシュが光り
「撮影終了~!右側のラクガキブースに移動してね!」というアナウンスが流れて、ようやく僕は解放された。
「ふはっ……朝陽くんめっちゃ固まってたね」
岬くんは、僕の様子を見て、楽しそうに笑った。
「だ、だって急に……!あ、あんなこと…するから…っ」
僕は、顔を真っ赤にしながら抗議しようとするが、岬くんは僕の言葉を笑い飛ばすばかりだった。
◆◇◆◇
出来上がった写真を見ると
僕は顔が真っ赤で、笑いを堪えきれず吹き出してしまった。
僕の顔は、茹でダコのように真っ赤で、目は泳ぎ、口元は引きつっている。
対照的に、岬くんはいつも通りの爽やかな笑顔で、僕の頬にキスをしている瞬間が鮮明に写っていた。
「ふふっ……朝陽くん顔赤すぎ」
岬くんは、僕の顔を指さして笑った。
「みっ、みさきくんのせいじゃん!」