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海の紅月くらげさん
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「ましろん」
実里くんの背後から顔を見せる同じ色の髪の人物と目があう。
「どうしたの? 実里にいじめられた?」
慌てて頭を横に振り、笑みを返す。
危ない危ない。涙こぼれなくてよかった。端から見たら喧嘩かと思われちゃうかもしれないよね。
「実里、ましろん借りてくよ」
「どうぞー」
さらっと会話をする潤と実里くん。
変わったことのもう一つは、二人の会話に刺々しさが少し消えた気がする。
二人の間のことはわからないけど、少しでも関係がいい方に向かっているならよかった。
「行こ、ましろん」
「えっ」
潤に腕を引っ張られながら歩き出す。振り返ると実里くんが苦笑しながらひらひらと手を振っていた。
「……潤、どうしたの?」
「ちょっと、話がしたいんだ」
「話?」
話の内容に心当たりはない。
潤は私の腕を掴んだまま、躊躇いもなく階段を上っていく。決して強い力じゃなくて、潤らしい優しい掴み方だった。
私はずっと潤の半歩後ろを歩いているから、潤がどんな表情をしているのかわからない。話ってなんだろう。
ギィイと鈍い音を立てて鉛色の扉が開かれる。私たちは真っ青な空が広がる屋上にたどり着いた。緑色のフェンスに背中を預けて潤からの言葉を待つ。
「実里、最近ましろんに懐いてるね」
隣に立っている潤に視線を向けると穏やかな眼差しで私を見ていた。
「からかわれることも多いけど……前よりは懐いてくれてるのかな」
最初は刺々しかったので、今ではだいぶ緩和している気がする。
「ありがとう。あの日、ましろんが実里の傍にいてくれてよかった」
優しいお兄ちゃんの表情だ。その笑顔に心がほっこりと温かくなる。
「最近は時々実里と家で話すんだ。前はほとんど話さなかったんだけど。文句言いながらも俺の作ったご飯とかお菓子とか食べてくれるんだよ」
「そうなんだ」
話している潤も楽しそうに笑っていて、つられて私も笑ってしまう。
実里くんが文句言いながら照れくさそうに食べてる姿が想像できる。今まで距離があった分、二人が少しずつお兄ちゃんと弟として歩み寄っていけるといいな。
「ねぇ、ましろん」
「ん?」
「俺とデートしてください」
「へっ!?」
突拍子もない発言に耳を疑った。
デ、デートしようって言った!?
「明後日の放課後は空いてる?」
「え? あ、うん……」
「じゃ、明後日ね」
なんだかあっさりとデートの約束が決まっていく。
「どうして、デート……?」
「俺だってがんばりたいから」
……それは王子候補の件と関係があるのだろうか。
「ましろんに見てほしいから」
潤が私の手をそっととる。
それはまるで物語の中でエスコートをする王子様みたいで
どくん、どくん……と全身に鼓動が伝わってくる。
自分の頬がどんどん熱くなっていくのがわかる。
潤の伏せられた瞳が色っぽい。
上目遣いで私を見てくる潤は悪戯っ子のように微笑んでいて、私の反応を楽しんでいるようだった。
「……っ」
耐えきれなくなって視線を逸らす。
「逸らさないで俺のこと見てよ」
「だ、だって……」
今度は手首に口元を寄せてきて、温かな吐息がわずかにかかる。
緊張で上手く呼吸ができない……っ!
「ましろんの手、いい匂いがする」
「は――っ!?」
ハンドクリームの匂いだよという言葉を言いかけて飲み込んだ。
潤が私の手首に顔を近づけている。
「バニラの匂いだ」
「……っ、うん」
「やっぱりましろんは可愛いね」
そう言って潤が私の手を放した。
自由になった手を胸元に持っていき、暴れている心臓を落ち着かせるように深呼吸をする。
今日の潤はいつもより大人というか大胆で、やっぱり実里くんと兄弟なんだなって思うくらいの色気が漂っている。
「俺のことも、男として見てね」
「っ」
女子力高くても、潤は男の子だ。そう思うと恥ずかしさが更に増していく。
まともに顔が見れない。王子役についてきちんと考えてってことだろうけど、そんなこと言われたら違う意味だと誤解してしまいそうになる。
「戻ろうか」
視線を逸らして小さく頷く。顔の熱はまだ冷めてくれない。それに触れられていた手が熱い。
変に意識しすぎてしまって、そのまま大して会話もせず教室に戻った。