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海の紅月くらげさん
体育の授業で少し足首を痛めてしまったので、昼休みに湿布を貰うために保健室へと向かった。
「あれ……」
保健室のドアを開けると、電気が消えている。
先生は留守みたいだ。湿布を一枚貰っていってもいいかな。あとで会った時に先生に言えばいいよね。
電気をつけて辺りを見渡す。確か湿布の場所は……
「眩しい」
低く響く声に驚き、動きを止める。
だ、誰かいたんだ!自分だけしかいないと思っていたので、飛び上がりそうなほどかなり驚いた。声の主はどうやらベッドで寝ているようだった。
「す、すみません!」
慌ててスイッチ押すと、部屋がまた薄暗くなった。早く湿布をとって出よう。
「ん……?」
そういえば、さっきの声聞き覚えがあるような気がする。
恐る恐る白いカーテンから覗き込む。ベッドで寝ている人物の顔を確認して「やっぱり」と声を漏らした。
目を閉じていた金髪の男子生徒の瞳が私を鬱陶しそうに捕らえる。
「……お前か」
耳の奥をくすぐるような低い声。
「具合悪いの? 和葉」
「眠い」
そう言って和葉は再び目を閉じる。
眠いって。マイペースな和葉らしいけど……
「あのね、保健室は具合が悪い人が寝るところなんだよ」
「うっせぇ……」
ベッドの傍に行くと、和葉は目をカッと見開く。そして、私の腕を掴んで引き寄せた。
「ぅ、わっ!?」
体制を崩し、真っ白なシーツの上に肘をつく。
「え……」
掴んだ力が強くて離れない。
「甘い匂いがするな」
私の手首に和葉が鼻を近づけてくる。鼻が皮膚を掠める度に全身が緊張で震えそうになる。
匂いを嗅がれるのってすごく恥ずかしい。ああ、もうどうしよう。逃げたい。離れたいよ。
「バ、バニラのハンドクリームを最近使ってるからそれかな」
さっき潤にも指摘されたけど、そんなに匂い残ってるものなのかな。使ってる自分じゃあんまりよくわからないや。
「あの、和葉そろそろ……」
「この匂い、好きだ」
恥ずかしくて早く離れたいのに、まだ腕は離してくれない。
「……そう」
「好きだ」
「そうなんだ」
「お前のことじゃねぇぞ」
「わ、わかってます……っ!?」
苛立ちながら会話を返していると、和葉が私の手首にキスをした。
「か、和葉!」
潤にも匂いはかがれたことが頭に過ぎる。潤とはまったく力の加減が違う。
「おまえさ、今誰のこと思い出してた?」
「え……」
唐突に訊かれ、言葉が喉に詰まる。
「お前って、誰が好きなの」
「な、んで」
「まだ、泉?」
泉くんのことは 〝好きだった〟。正直そんなに簡単に次にいけるほど癒えてはいない。でも、もうこの恋は終わっている。終わらせないといけない。それはちゃんとわかっている。
「ま、俺には関係ねぇけどな」
そう言いながらも私の腕を掴んだ和葉の手は離れない。
「はな、して……」
やっとの思いで出た言葉。和葉の視線が私に向けられている。
「あんまりふらふらすんなよ」
その言葉の意味は、わからない。……ううん、本当は少しわかっている。
でも、答えが見えない私は返す言葉が見当たらない。