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トシ子が顎に手を置いて考え込んでいた顔を上げてコユキに聞いた。
「ところでアリシアとラーシュの望みって何だったんじゃ? アムリタを飲むって事は永遠の命になると言えば聞こえは良いが、要は魂だけの存在になるって事じゃろう? まさか自殺願望でも無いじゃろうし…… 記憶があるのじゃろうコユキ、一体何が望みだったんだい?」
「愛よ、アタシと、じゃなかったアリシアさんとラーシュさんの二人は心から愛し合っていたのよ、文字通り身も心も、お互いの全てをね、スウェーデンの聖女と聖戦士として活動しながらも、ひっそりとバレない様に…… 結婚も子供を授かる事も諦めて、二人だけで愛を育んでいたのよ…… でも、状況が変わった…… アリシアさんの元にツミコ叔母さんの手を離れた二つ目の神器が現れたのよ、後は分かるでしょ? おばあちゃん」
「禁忌(きんき)じゃな、真なる聖女になったアリシアは世界中の聖女や聖戦士に注目されるからのう…… 二人はそれまでの様な関係を続けられなくなったのじゃろうて……」
「そうよ、思い詰めていた二人はカーリーの誘いを受けたのよ…… 精神体だけになって、せめて心だけは永遠に一緒に居ようって、決めてしまったのよ」
「真面目、じゃのう…… 悲しすぎるじゃないかい」
元々は禁忌を侵す事について厳しかったトシ子であったが、もう一つの禁忌、悪魔とネンゴロとなった今では考え方が大きく変わっている様であった。
暗く沈んだムードを変えようとしたのだろうか、バアルが努めて明るい声で言う。
「でもアムリタって半分でも効果があるんだね? そもそもの用量が適当な感じだったとかなのかなぁ?」
善悪が首を振って答える。
「無かったでござるよ、というか不十分だったのでござる」
「え?」
コユキが引き継いで続けた。
「アムリタはアリシアさんとラーシュの魂を永遠に変わらない物、アートマンに変える事には成功したの、でも半分の量では本来の効果は得られなかったのよ…… 肉体は消失せずに残ってしまったし、他にも思いもよらない事が起こったのよ…… グスッ」
「大丈夫でござるかコユキ殿」
話している最中に涙ぐんでしまったコユキの手を善悪が取って、もう片方の手で肩をポンポンと叩いて励ましている。
バアルが遠慮がちに聞いた。
「それで、どうなっちゃったの? 二人は……」
涙ぐんでいた筈のコユキと慰めていた筈の善悪が同時にバアルに顔を向けて答えた。
「「うむ、お互いにアートマン同士だからな、吾輩が語り掛けたのだが何の返事もしては来なかったのだ! 恐らく魂以外の要素、知性かはたまたアイデンティティみたいな物か、しかとは分からぬが何かが足りなかったのではないかな? とは言え辛うじて自我が残っていたのだろうな、青く輝く魂魄(こんぱく)は拙者の前で揺らめいて居ったが、片方をカーリーが掴んで薄汚い袋に入れると、残されたもう一方が後を追うように自ら袋の中に入って行ったからのう…… 改めて思ったが生き物、殊更(ことさら)人間の情と言うヤツは強い物だと思ったものよ…… お前等もそう思わぬか、俺っちの弟バアルにアスタロト、それに我が子たち、アムシャ・スプンタよ」」
「エ、ダ、ダレ? マ、マサカ」
オルクスのパニクったような声に二人は答えた。
「「誰ってルキフェル以外の誰だと言うのだ? 可笑しな事を申すなオルクスよ! なははは」」
「兄上!」
「おいおいマジかよ、ルキフェル兄上の話し方だぜ! 魔力も同じ、いや従前より強くなっているか……」
「「なははは、又強くなってしまったか、そうかそうか! それは重畳(ちょうじょう)! まあ、兎に角、アートマンになった儂はアリシアとラーシュが消えたんでな、善悪とコユキの体に入り込んだって訳だな! 善悪は兎も角コユキの体には中々馴染めなくてなぁ、オルクスを倒すまで記憶が封印された状態でなぁ、ミーとしても些(いささ)か焦った物よ! んまあこの人間二人が不慮の事故とかで死んだら又次の体に行くだろうし、言うほど焦ってはいなかったのだがな、なはははは、なははは、はっ!」」
特段面白い事を言った訳でもないのに、二人揃って大笑いした時に、腹を抱えたタイミングでつないでいた手が離れ、その瞬間に我に返ったようなビックリ顔でお互いの顔を覗き込んでいるコユキと善悪。
ゆっくりと仲間の方に顔を向けて、またもや同時に言うのであった。
「今アタシなんか変だったよね?」
「今僕チンなんか変だったよね?」
全員がこちらも揃ってコクコクと頷き返すのであった。