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名門五月雨家。商業者なら一度は聞いた事があるであろうほどの豪商の一族。
私はその一族の娘で、後継である兄に劣る出来損ない。
ずっと、比べられて生きてきた。
兄は完璧だ。運動も勉強も、ピアノも芸術も料理も全部、人の数十倍の出来で、その上すれ違えば誰もが振り返るような美青年だ。
それに対して私は?運動も兄より出来ないし勉強だって兄に優ったことはない。ピアノだって兄の音色にはたどりつけないし、芸術センスも料理も兄に追いつけない。容姿だって兄の隣に立つと霞んでしまう。
「罪(カルマ)は出来るのに。」
「罪に劣る出来損ない。」
「罪の方が優秀。」
そんなのわかってる。
わかってるから。
わざわざ言わないでよ。
私だって頑張ってるよ。
努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても。
結局天才の兄には追いつけない。
やめてよ。
努力しないでよ。
突き放さないでよ。
お兄様が努力したら、追いつけなくなるじゃない。
努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても努力しても。
結局天才の兄には追いつけない。
やめてよ。
努力しないでよ。
突き放さないでよ。
お兄様が努力したら、追いつけなくなるじゃない。
いっそのこと、嫌えたらどれほど良かっただろう。
半端な私には、それすらできなかった。
兄は、どうしようもなく優しかったから。
私のすることは、自分の方がよく出来る癖になんでも褒めてくれた。私が失敗して怒られた時も、必死に庇ってくれた。
第一、そのせいで嫉妬した人達に陰口を叩かれたりもしたけど、
それでも、私は兄が大好きだった。
大好きだったから、余計に苦しかった。大好きな兄のせいで虐げられ、劣等感を抱える日々が、どうしようもなく苦しかった。
もういっそ、こんな世界なんて滅びて仕舞えばいいのにと、毎晩毎晩思いながら眠りについていた。
ある日、本当に世界が壊れていた。
朝起きると空気がおかしくて、屋敷の中がやけに騒々しかった。部屋の外へ出ると唸り声が聞こえて、振り返るとそこには五月雨家の使用人だったであろうモノが、赤黒く爛れた体を人とは思えない方向に曲げ、骨の剥き出した手の甲を見せつけるような体制でゆっくりとこちらに向かってきていた。
逃げる間は驚くほど冷静で、屋敷の出入り口まで怪我一つしなかった。
化け物がさほどいなかったそこには、何かを待つように兄が佇んでいた。兄はこちらに気づくと走ってきて手を差し伸べた。
「どうやら爆発で世界が大変なことになってるんだって。途中化け物とかいなかった?」
説明的な口調と強く差し出された手からして「早く逃げよう」と促しているように見えたので、大人しくその手を取って走り出そうとした。
その手は、ひどく硬くて冷たかった。
違う。硬くなっていたんだ。
明らかに人の手とは思えない感触に驚いて重ね合わせた手を見ると、兄の手が灰色に変色していた。
手だけじゃない。みるみるうちに腕も首も、まるで石みたいに、というか石になっていた。
何もできずにいるうちに兄の驚いた顔も石になった。何が起きたか分からなかった。驚いて兄の肩を掴んで揺らす。
兄の肩は揺れず、脆い石がボロボロと崩れ落ちて行く。呆然としていると、それまでいなかった一体の化け物がこちらに遅いかかってきた。
顔を手で覆って防ごうとすると、着物から剥き出した腕に触れた化け物の腕が、兄と同じように、石化していた。
兄と、同じように、石化していた。
私がやったの?
兄を、
私を助けようとしていたお兄様を、
殺したの?
違う。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違うの。こんな、こんなのお兄様じゃない。
だってお兄様は完璧だもの。
こんなことで死ぬわけないじゃない。
そうじゃなきゃ私が虐げられた意味がないもの。
私じゃない。
あ、ぁ、お兄様…どこ…?
気づけば走っていた。
何かを求めるように、何かから逃げるように。
着物が汚れるのも気にせず、ただ必死で、必死で。
その内、一つの建物にたどり着いた。
中は薄暗くて奥に人の気配がした。
「…どうしたんだい?こんな夜中に、女の子が一人では危ないよ。」
彼は私に触れる事なく、疲れてへたり込んだ私にカウンター越しに話しかけてくる。
あぁ、やっと見つけた。
「探していたんですよ、お兄様。」
五月雨 業(サミダレ カルア)
能力:石化
触れた生物を石化させる。石化した生物は非常に脆くなり、触っただけで崩れることがほとんど。