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「マスター! 無理をせずに!」
「りょ、了解!」
コボルトロードと対峙して奴に近づく。ジャネットの指示を聞いて、僕はみんなの一番後ろで警戒する。
コボルトロードは大きな空洞で地上からの日を見上げる。日を掴もうと虚空を握る。まるで光を、自由を求めているように。
「ギャアァァァァァァァ!」
「うわっ!?」
虚空を握ったと思ったらコボルトロードは絶叫を上げる。何も得られない、それに気が付いた子供のように絶望してるみたいだ。
その絶望を持って僕らへと視線を一瞥していく。人数を確認するように、絶望を与える相手を定めるように、彼は黒い感情を爆発させていく。
「姉さん! 僕の後ろに!」
ジャンの声が聞こえる。彼は何かを感じたんだろう。それと同時にコボルトロードが暴れ始める。5メートル級の巨人がその体躯を使って暴れまわる。
恐ろしいほどの衝撃が洞窟に加えられて崩れてくる。
「ルーザーさん!」
帰り道が崩れて通れなくなってしまった。逃げることはできない、援軍が来ることもない。僕たちはコボルトロードを倒さないと生きることができないことを自覚させられる。
「エクス!」
「心配するな。俺たちは勝つ!」
僕が考えることはみんなも考えつくことだ。エクスの仲間が不安で表情を作ると、エクスが不安をかき消すように声を上げる。カッコいい……僕はあんなこと言えない。でも、
「い、命を大事に!」
「ふふ、マスターの命ですね! 了解です!」
「ワンワン!」
「しまらないな~」
僕は恐怖と不安を抱えながら声を上げる。ジャネットがクスクスと笑いながら剣を構えると、ルドラとジャンが続いてくれる。僕はみんなの命もと思って言ったんだけどな。
ジリジリとコボルトロードの間合いに入る。その緊張の刹那、エクス達の矢がコボルトロードの顔に命中する。戦いののろしだ。
「来るぞ~!」
「ギャアァァァァァァァ!」
エクスの声と共に両手を広げて突進してくるコボルトロード。5メートルの体躯で両手を広げる。その広い攻撃範囲にエクスの仲間の女性とジャンが捕まる。
「い、今のうちに!」
「エクスも!」
鯖折りの状態になった二人は声を上げる。苦しそうにする二人に顔を歪める僕達は同時に攻撃を仕掛ける。
ガギン! まるで鉄を叩いたような音が響く。周りを見るとジャネットとエクスしかコボルトロードの皮膚を貫くことが出来てないみたいだ。
「う、あああ」
「大丈夫か! ダメだ! マスター! 僕は一度戻る!」
ドサッ! 鯖折りで悲鳴も上げられない様子のエクスの仲間の女性、ジャンは余裕を見せて僕のウィンドウに帰っていく。ジャンが消えたことで隙間が空く、そのおかげで苦しんでいた女性が地面に落ちる。
「ジャンをすぐに呼び出して!」
「なるほど! 了解!」
ジャネットの声ですぐにジャンを呼び出す。その時、首を傾げていたコボルトロードが僕に目をつける。ギョロッとした瞳で僕を足先から頭の先まで眺め始める。僕は嫌な予感がして顔が冷たくなるのを感じる。
「この野郎!」
「こっちは無視か!」
隙だらけのやつを攻撃するエクス達。やっぱりエクスしかダメージを与えられてない。攻撃を受けているのにコボルトロードは僕から目を離さない。
「こんな洞窟内で魔法なんて使えない。どうする、姉さん!」
「……」
ジャンの声でジャネットがコボルトロードを睨みつける。ルドラの噛みつきもかすり傷程度だ。奴は痛みを感じないのか無視をして僕を見つめてくる。
「み、みんな! 地上だよ! ルーザーさんがあの穴から来てくれるはずだ!」
僕はコボルトロードから目を離さずにそう叫ぶ。するとみんな大きくうなずいて奴を取り囲む。
「俺が時間稼ぎか。まったくルーザーさんは」
「はは、そう言わずに。僕はいつも通りだよ」
エクスの愚痴に僕は笑って答えると剣を改めて構える。時間を稼げば勝てる、そう希望を描いていると鋭い衝撃が腹部に生まれた。
「え……。な、なにが……」
一瞬の出来事で何が起こったのかわからない。急にお腹が痛くなった、まるで雷に撃たれたような痛み。キョロキョロとうつろな視界で周りを見回す。
ジャネットが泣きそうな表情で僕を見つめてくる。耳が聞こえない? 何が起こったんだ?
僕は何とか動く手で腹部を触る。あれ……お腹に穴が開いてる? ……エクス達が戦ってる。ジャンもルドラも戦ってる。
はは、魔法はダメだって言ってたのにジャンは泣きながら使ってる。水しぶきが気持ちいいな。
「ごふっ……」
「!!??」
ジャネットも戦って、そう言いたかったけど、口から赤いものが出てきて言えなかった。のどに詰まる赤い液体……僕はそれを血だと分かるのに時間を要した。
そうか……攻撃されたのか……僕は。コボルトロードは僕を蹴飛ばしたんだ。奴から遠く離れていたのはそう言うことだ。早すぎて見えなかった。
でも、僕でよかった。エクス達やジャネットがやられていたら悲しかったから。僕でよかった……僕でよか……。
『マスターの死を確認しました。生き返りますか? 【全ラリの消失】』
「ここは?」
目を瞑った真っ暗な世界に白い文字が見える。周りを確認するけど、何もない真っ暗な世界だ。
「僕は死んだんだよな。生き返るって本当? 僕の想像じゃないのかな?」
文字を見つめて首を傾げる。生き返れるなら生き返りたいけど、代償が安すぎないかな?
まあ、ゲームとかだと持っていたアイテムを全損する見たいのはあるけど。
「生き返るに決まってる」
僕はこの世界が好きだ。魔物と戦わないといけない世界だけど、とても優しい人達のいる世界。
僕はそんな世界を守りたい、支えていたい。一か月も経っていないくせになんて思うけど、今はみんなを守りたいとハッキリと言える。
さあ、戻るぞ。死が隣にいる世界へ! 残酷で優しい世界に!