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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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一人でダメなら二人で。二人でダメならもっと大勢で。名だたる大魔導師たちの魔力は、多少の消耗はあれど、ドラゴンロードを初め、仲間たちの奮闘によって、まだまだ余裕がある。ヒルデガルドの魔力を再び満たしても、なお余るほどに。


「任せなさい。さっき、ここへ駆けつけてくれた、あの狼が、あんたには必ず助けが要るって伝えてくれたおかげで、アタシたちは魔力を温存して待ってたのよ。杖を掲げなさい。アタシたちがそれを通じて魔力を注ぐから」


言われるまま頷いて高く掲げた杖に、大魔導師たちは手をかざす。竜翡翠の杖は、彼らの手に集まって青白く輝く魔力を吸いあげ、ヒルデガルドの身体に流していく。全身が満たされ、疲れさえも癒えるようだった。


「……ああ、頼もしいものだ」


最初は独りの方が気が楽だった。誰の邪魔もなく、自分の研究さえできていればよかった。世界を救ったという事実ひとつで持て囃されることへの気疲れもあったのかもしれない。だが、再び戦いの地に立って、どれだけ多くの者に助けられただろう? どれだけの温かい言葉をかけられただろう? 自分を頼りにしてくれる人々の期待に応えたい。いや、応えなくてはならない!──彼女は今、大賢者として、再び覚醒する。


「やあっと追いついたわ、大賢者」


背後に強い殺気がぶつかる。ディオナが口もとの血を指でぬぐって、心底不愉快そうに束ねた鞭を握り締めてギリッと歯を鳴らす。


「でもこれで、やっとあなたに集中できる。今度こそ殺してあげるわ、大賢者ヒルデガルド。そして、やっとこの世界は私のものになるの! でも安心なさい。人間はみーんな、私たち夢魔の餌として飼育するから、根絶やしになんてならないわ!」


夢魔は魔物の中でも非常に脆い。それゆえに誘惑して精気を吸い取ることで彼らから栄養を補給して命を奪う。だが、その弱さゆえか他の魔物からも捕食対象になることはしばしばあった。


ロードになれば、デミゴッドになれば、少しは変化があるはずだと信じみても、実際に目の当たりにしたのは、イルネス・ヴァーミリオンやシャロムの存在。どこまで行っても自分たちは弱い、と何度嘆いたか分からない。


だが今は、クレイの魔力を取り込んで、最強のデミゴッドとなったのだ。これからは自分たち夢魔こそが魔物の頂点として立つのだ。その夢の実現のためには──。


「邪魔なのよ、大賢者。あなただけが大きな壁だった。クレイ・アルニムに近づくのは難しくなかったわ。でも、あなたは違う。何者にも屈さず、自分を持った人間ほど私たちにとって厄介な奴はいない。そのうえ強いときたら──」


高く飛びあがり、再び鞭を地面に向かって叩きつける。魔力の混ざった強烈な竜巻をみれば、誰もが畏怖を抱いて息を呑む。


「あなたは邪魔なのよ! ここで死になさい!」


彼女の咆哮に、ヒルデガルドは杖を片手にぎゅっと握り──。


「──禁忌指定。《無窮の誘い《テンタシオン》》」


石突がとん、と地面を軽く叩く。翡翠は黒く染まり、魔力で空を衝く。雲を払い、黒い渦が巻いて空に穴を開ける。直後、大地が揺れ、空気が震え、竜巻が前進を止めて勢いを落としていき、しばらくすれば吸い込まれて渦と共に消滅した。


「なっ……何よ、それは……今のはなんなのよ!?」


「禁忌指定。過去に生み出された、使うべきと判断したとき以外に使ってはならない魔法だ。常人には操れないから、禁忌指定となった」


呼吸の乱れはない。ヒルデガルドは、もうディオナを大敵と思うほど衰弱していない。無属性の魔法を使う余裕さえ持っている。だが、今度は逆にディオナが弱っていた。クレイから力を吸収したとはいえ、大技を二度も撃ち、シャロムとまともにやりあったのだ。どちらが優勢かはだれが見ても分かる状況に、彼女は唇をかみしめる。


「くそっ、くそっ! ここまで来て、私が負けるなんて、そんなことあるはずない! あるはずがないのよ! あなたたち、たかが人間なんかに──」


突然、背中に何かが着弾して、身体が焼ける痛みに襲われた。「ぎゃああああああっ!」叫び声をあげて地面に落下し、悶える後方で、イーリスが杖を構えていた。避難区域で待機していたクオリアから魔力を託されて、再び戦場に駆け付けたのだ。


不意打ちを受けたディオナは、ヒルデガルドを前に立ち上がることさえ苦しそうに、腹立たしさから地面を殴った。


「おかしい、おかしい、おかしい! こんなはずが……こうなるはずがないように、ずっと準備を重ねてきたのに……! なんで私が負けてるのよ……!?」


鞭を握り締め、震える足で立ち上がって、もう一度だけ、こんなものは現実ではないのだと信じるために振るおうとして高く手を掲げた瞬間、彼女の手は大きな骨のひらべったい手に掴まれた。


『はいはい、そりゃ大変だったね。でもおまえはあまりに往生際が悪くて、見ていられない。面白くない。これ以上はやめておけ、もう十分だ』


アバドンが割り込んだ。なんの気配もなく、ヒルデガルドだけが顔を逸らす。


『バイバイ、ディオナ・ダチュラ。中々に退屈しのぎにはなった』

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