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#すとぷり
るぃ@BL好き 🎀♡
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井野匠
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フワフワと淡雪が儚げに舞っていた。
積もる心配はないだろうが、足元からシンシンと寒さが這い上がってくる。
私が、狩衣の雪を払いながら、橘殿の屋敷に訪を入れると、舎人が出てきて「橘殿はお出掛けです」と告げられた。
大師様は南山(高野山)においでなので、本日は独り修行だ。
それでも、舎人が修行部屋に通してくれたのは、もう一年以上も通っているからだろう。
橘殿も、「延信、延信」と呼んで、まるで息子のように可愛がってくれる。
修行部屋に入ると、さっそく「黄帝内経」の霊枢を読み始めた。
大師様には、この部屋から「黄帝内経」を持ち出すことは固く禁じられているが、読むことまでは禁じられていない。
だからこそ、己が「俄か(にわか)」と呼ばれる特殊な存在であることも、今では、ちゃんと理解している。
また、痛みを感じぬ体質と、俄かであることに何の因果関係も無きことも…
ただ、痛みを感じぬ体質には、幼き頃よりたいそう苦しめられたのだ。
幼き頃から、よく怪我をした…
痛みを感じぬ性質なので、唇を噛んで血を流すのはしょっちゅうで、殴られても平然としているから、友からも気味悪がられ、私は「物の怪」と呼ばれていたのだ。
父君や母君からも疎まれた。
父君には、「代々、鍼医の家系でありながら、痛みを感じぬとは穢れつきも同然ではないか!」と、なじられ、私の居場所はどこにもなかったのだ。
だから、必死で人の顔色を伺った。
変な目で見られていないか?
陰口を叩かれていないか?
反感を持たれていないだろうか?
いつも怯えながら、受け入れてもらうために、常に明るく振る舞っていたのだ。
そして、私は、痛みとういものを常に渇望していた。
傷を負って泣いている童を見れば、その傍らで、つぶさに様子を観察する。
腰痛などで、運ばれてくる老人の話を聞いたり、腹痛を訴える患者と、父君のやり取りにも耳を傾けた。
されど、今もって「痛み」が何であるかは分からない。
そんなことに思いを巡らせていると、不意に声を掛けられて、飛び上がるほど驚いた。
「申し訳ありませぬ。
驚かせるつもりはありませんでした。
何度か声を掛けたのですが…」
扉の前に、美しい女性が火桶を持ったまま、困ったように立ち尽くしている。
私も、慌てて立ち上がった。
「こちらこそ、考えごとをしておりました。
申し訳ありませぬ」
私は、なるべく女性の顔を見ぬように俯いた。
すると、女性が修行部屋に入ってくる。
「冷えますので、火桶をお持ちしました。
あいにく女房たちも出かけておりますゆえ…」
そういうと、火桶を床に置いてから、修行部屋をもの珍しげに眺めている。
「はしたないと思われるやもしれませぬが、私は以前より、霊枢というものに心惹かれておりました。
叱られるので、父君には内緒にしてくださいね」
そう言って微笑んだ女性の顔が、まるで天女のようであった。
その瞬間、私は、呪われし運命も、霊枢の修行も忘れて、その女性に見入ってしまう。
「父君が申しておられました。
そなたは特別なのだと…
酒(ささ)が入ると、いつも上機嫌にられて、口癖のように言うのです。
霊枢の師匠である空海ですら、延信には敵うまいと…
なにせ、空海の霊枢は、俄かである延信には通じぬのだから、その内、追い抜かれてしまうであろう。愉快じゃと…
半分は、大師様への当て付けですが、もう半分は、そなたを自慢していたのだと思います。
ですから私も、一体どんな方なのだろうと、お会いしてみたかったのです」
私は、その言葉にしどろもどろになってしまう。
そして、生まれて初めて、人から認められ、受け入れられたという喜びが、ふつふつと湧き上がってきたのだ。
それが、雪のように淡い、私の初恋だった。
コメント
5件

俄でも恋ができるのか! キュンです!🥰🥰🥰
第17話、読み終えたよ〜!!🌸✨ 延信くんの過去、胸がギュッとした…痛みを感じないことで「物の怪」扱いされて、家族にも疎まれてたなんて😭💔 でも、橘殿の娘さんが「父君は延信を自慢してた」って伝えてくれたシーン、涙出そうになったよ…! 初めて人に認められた喜びと、雪みたいに淡い初恋、すごく切なくて美しかった…🥺💕 井野匠先生、素敵なエピソードをありがとうございます!