テラーノベル
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―――
その日は普通に仕事を終えてそれぞれがバラバラに解散し帰宅した。
俺は帰ってすぐにギターを手に取り今日浮かんだ言葉をメロディに乗せていく。
「〜〜〜♪」
…結構いいかも。
しっくりくる。
今日勇斗と話した、恋愛中の感情…確かに温もりのあるリアルな感情を湿度のある言葉へと変換できている。
「…いいね」
その日は夜更けまで曲作りに勤しんだ。
溜まっていたフラストレーションが確かな充足感に代わり、眠気が訪れてさっきまでの高揚感が少しづつ引いていくのを感じ、目を閉じた。
あー…気持ちいなー。
また勇斗に聞いてみよう。
歌詞の進捗も…伝えなきゃ……
……………
…………
………
……
…
―――
また仕事の合間に勇斗と話す機会が訪れた。
「じーんちゃん」
「あっ、勇斗」
「あれからどう?」
「うん、進んでる」
今日は勇斗の方から話しかけてきた。
「コーヒー買ったけど飲む?」
「え、ありがとう」
「ブラックと微糖どっちがいい?」
「あー…」
差し出された2本の缶コーヒーを見た時ふっと既視感に襲われた。
ブラック?勇斗が?コーヒー苦手なのに?
「え…これほんとにどっちか選んでいいの?」
「いーよ」
「…じゃあこっち」
俺はブラックを選んだ。
正直どっちでも良かったけど、多分2人分の缶コーヒーなら勇斗にミルクと砂糖が入った方を残した方がいいだろう。
というよりなんでコーヒー??
「…うま」
「良かった」
「…それ飲めんの?」
「え?」
「コーヒー、飲めるの?」
「飲めるよ。普段あんまり飲まないだけ」
「…ふーん」
この間自分の頭で描いた好きな人とのシチュエーションを思い出す。
『……一緒に並んで飲んだ記憶…本当はお揃いにしたかった飲み物
だけどハズレていたらどうしようって…2つ買って選ばせた』
…偶然…かな。
「…あのさ。」
「なに?曲作りの続き?」
「うん…いや、この前言ってた勇斗の好きな人ってどんな人なの?」
「…なんで?」
「…うーん…どんな人なのかというより、どんなところが好きなのかな?って」
「…どんなとこー?」
「うん」
勇斗は少し笑って困ったような顔をした。
テーブルに肘を着いてこちらをじっと見てくる。
「どんなとこかあ」
「あるでしょ、なんかは」
「…結構長いこと好きだった気がするからなー」
「そうなん?」
「…うん。片思い。」
「まじか?全然知らなかった」
「言ってないからね」
「まあ…」
「どんなとこ…うーん…。いつもは強がりだったり捻くれてるとこもあるけど、ちゃんと素直なとこかな」
「へー」
「礼儀正しいし、あんま出さないけど相手のことをちゃんと考えてるところも」
「へえ」
「あと顔が好き。笑顔が好き。凄い可愛い」
「…」
だんだんと楽しそうに話す勇斗に圧倒されていた。
恋してる顔って、こういう顔か……。
「…多分、前よりも好きになってる」
「…そうなんだ」
「うん」
そう言った顔が少し切なそうで、胸が少しだけ締め付けられた。
「…ほんとに好きなんだな、その子のこと」
「その子?」
「うん」
「まあ…尊敬出来るしどっちかっていうとその人、かな」
「へー。うまくいくといいな?」
「…うん。」
「…なんか、今の自分には遠くにあると思ってた感情だったけどそんなこともないんだな」
「…なにが?」
「勇斗の楽しそうに話す顔が恋愛してるって感じで、俺はそれを参考に歌詞に落とし込んでみるよ」
「…どんな歌詞が出来るのかね」
「そうね。今んとこ結構リアリティある歌詞になってるよ」
「そう。なら良かったね」
「うん。いつもありがとうな」
「…いいよ。いつでも聞いてよ」
今日の勇斗は楽しそうにしたり切なそうにしたり真剣な顔になったりと表情が忙しい。
なんとなく見ていて楽しいし、こちらまで感情を持っていかれそうになる。
こういうところが、うちのグループの顔として人を惹きつける理由なのかもしれないな。
「…勇斗は大事にしたいから、告白してないの?」
「…え?」
「だって、告白したら付き合えるかもしれないじゃん。なのに、ずっと?してないんだろ?」
「…うん」
「それはどうしてなの?」
「…大事にしたい…いや。振られたらって考えるとさ。ちょっと怖いよね」
「あー、なるほど」
「それまでの関係とか、崩れるし。」
「…友達みたいな関係なのか?」
「友達…うーん…まあそんなとこかな」
「へえ」
「仁ちゃんは?ないの?そういう経験」
「え、俺?」
急に話を振られてぎょっとする。
俺?
「えー…俺はー…割とすぐ言っちゃうかも」
「そうなの?」
「うん。好きですって」
「…じゃあ今はほんとに好きな人いないんだね」
「いないねー…全然ないよ」
「…じゃあどういうタイプが好きなの?」
「え、これなんかの雑誌記事のインタビューかなんか?」
「そうじゃなくてさ」
笑った顔が少し真顔になる。
「…うーん。見た目よりかは、中身かな。感情を素直に出せる人がいいかな」
「ふーん」
「あとはー…ちゃんと対等でいたい」
「…そうなんだ」
「え、そうじゃない?」
「まあ、そうね」
「どんな人かは…具体的にはわかんないな。出会ってみないと」
「そっか…」
「なに?」
「…もう出会ってる人の中から好きになることはないの?」
「もう出会ってる人…」
「気付いたら近くにいたりして」
「えー?居るかあ?わかんねえ」
「そっか」
「…どした?」
「え」
「なんか、暗い顔してるから」
俯く顔が少し気になった。
「暗い?かな」
「うん、なんとなく…」
「うーん…俺の好きな人がさ…」
「あ、うん」
「…鈍いんだよね」
「あー」
「あー、じゃないよ」
「え?」
「ていうか、多分俺のことそういう対象として見てない」
「うわ…辛いなそれ」
「辛いよ?てかそう。それであんま期待するのやめたんだよね」
「そっかあ…」
「…でも、最近あっちからやけに近付いてきてさ」
「えっ」
「親しげに話しかけてきて、俺の恋愛観聞いてくるんよ」
「えー…」
思わず顔が歪む。
なんかそいつ…無自覚過ぎないか?
傷付いたような勇斗の表情に胸がキュッとなる…。
「どんな人が好き?とか、今好きな人いる?とか」
「え…待って待って。それは脈アリなのでは?」
「いや、全然ない」
「はあ?意味わかんねえ。なんかちょっとイメージ変わったわ」
「なんの?」
「その、勇斗の好きな人。無自覚に振り回す系じゃねえ?俺はちょっと無理だわ」
「…」
近しい友人が傷付けられているようで、なんともいたたまれなくて悪口が止まらない。
「自分のこと好きかもって、気付かないのかなあ」
「……気付いてないね」
「…もうハッキリ言うしかないね、それは」
いつの間にか飲み屋で説教するオッサンのようなテンションになっていた。
「…告白してもいいのかな」
「するしかないっしょ。じゃないと絶対気付かないってその子」
「……じゃあ」
「……?」
俺の目を、じっと見つめる勇斗の顔が急に引き締まったように感じた。
「告白するね。」
「うおっまじ、」
「仁ちゃんが好き」
「……」
「好きだよ」
「……え?」
その言葉の意味が理解出来なかった。
は?…俺?なんて言った?
今勇斗はなんて言った。
「…」
「もう1回言うね。俺は仁人のことが好き」
「……ま、って」
「うん?」
「いや…嘘うそ、なにそんな真剣な顔で冗談言ってんのよ」
「嘘じゃない」
「……」
…勇斗の好きな相手が、俺?
「……」
「……」
目が…逸らせなかった。
じっと俺を見据える瞳には不安や迷いなんかは見えなくて、ただ俺を見つめていた。
妙に落ち着いたその表情からは気持ちが読み取れない。
冗談じゃ…ない?
さっきの勇斗の言葉がリフレインする。
―嘘じゃない
―仁人のことが好き
「……ぁ」
「……」
うまく、言葉が出てこなかった。
「……そんな、鳩が豆鉄砲喰らったみたいに」
「……え、ぇええ」
「…気持ちは伝えたから。今はもう、それだけで満足です。」
「…満足って」
「うん。ずっと、言えなかったから、それだけで。」
「……」
ガタッと椅子から立ち上がった勇斗をただ目で追っていた。
「…あ」
「驚かせてごめん。また話そ」
「…待って」
「歌詞、頑張ってね」
強引に話を切り上げた勇斗が俺の前から離れていってしまった。
背中を見つめる。
「………嘘だろ」
ポツリと、呟いた言葉はガヤガヤとした現場の音に掻き消された…
―――
コメント
1件
心理描写が素敵です…。