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第十三章
束の間の平穏
―迫る新たな脅威―
「お世話になりました」
四人は揃って宿主に挨拶をし、宿を後にした。
「んー。いい天気……早くお昼ご飯、食べたいなぁ」
「は? ついさっき朝ご飯を食べたばかりでしょ?」
琥珀の言葉に、蒼紫は呆れたように返した。
「でも昨晩泊まった宿屋さんのご飯、とても美味しかったですし。いただいたお昼ご飯も、今から楽しみです」
柔らかく微笑みながら、詞葉も琥珀の意見に賛同する。
「……神官さま。昨晩お話しされていた、右腕と同じくらい強い敵はまだいる、と仰っていましたが……何人いるか、ご存知ですか?」
楽しそうに話す皆を見て、煉華は明るい空気を壊すことに躊躇した。しかし意を決し、羅刹へ問いかけた。
煉華の言葉に、場の空気が固まる。
羅刹は静かに口を開いた。
「申し訳ございません、朱雀の巫女さま。我々も”居るだろう”という認識でしかありません」
「ですが、そう認識せざるを得ない何かがあった……そうですよね?」
蒼紫の言葉に、羅刹は短く頷いた。
「はい。荒らされ方が違うのです……。力任せに破壊された街。そして、皆さまが来る途中で目にされた、瘴気や毒気に侵された川……。手口があまりにも異なるのです。ですから我々は、敵は複数いるものと認識しております」
「つまり……右腕を倒せば終わり、って訳にはいかないってことね……」
蒼紫は険しい表情で呟いた。
「はい。そして、その者たちが右腕と同等の力を持つのであれば……今後の戦いは、さらに熾烈なものとなるでしょう」
重苦しい沈黙が流れる。
先ほどまで昼食の話で笑っていた空気は、跡形もなく消えていた。
「……でも」
沈黙を破ったのは琥珀だった。
「何人いようが関係ないよ! あたしたちは、みんなを守るためにここにいるんだから!」
その言葉に、詞葉も静かに頷く。
「はい。怖くないと言えば嘘になります。でも……四人なら、きっと乗り越えられます」
煉華は拳を握りしめ、小さく息を吸った。
「……負けない。世界も、みんなも守る。そのために私はここにいる」
羅刹は四人を見つめ、穏やかに微笑んだ。
「……頼もしくなられましたね。巫女さま方」
「えー? そうかなぁ? 羅刹くんに言われると、自信ついちゃうなぁ」
照れたように笑う琥珀を見て、羅刹は優しい笑みを浮かべる。
「本当に……期待していますよ。巫女さま方」
その瞳の奥に宿る真意を、まだ誰一人として知る者はいなかった。
――その頃。
遥か上空から、五人を見下ろす二つの影があった。
「楽しそうね……。右腕さまに言われて様子を見に来たけど……」
「いいんじゃねぇか? 今のうちに楽しんでたらいいさ。その笑顔をぐちゃぐちゃの泣き顔に変えてやる瞬間が、待ちきれねぇなぁ…」
二人は不気味な笑みを浮かべる。
遥か上空から五人を見下ろす二つの影に、まだ誰も気づいてはいなかった――。
コメント
1件
第13話、読み終わりました。朝の和やかな雰囲気から、煉華の一言で一気に緊張が走る展開、すごく良かったです。琥珀の「関係ないよ!」で空気を切り替えるところに、彼女の芯の強さを感じました。そしてラストの上空の二つの影……あの台詞、完全にホラーでぞっとしました。伏線の張り方が巧みで、次の話が気になって仕方ないです。