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僕はみんなに内緒で飼っている生き物がいる。
種類はよくわからないがオスのようなので「彼」と呼んでいる。
もふもふしていて、牙があり、羽が生えている。
見つけた時は弱々しく死にかけていたが、
懸命に世話したことにより今はとても元気だ。
「彼」は肉食のようで、一口分の鳥もも肉を好んでよく食べる。
前は細く割いたササミだったので、少しづつ大きくなっているのかもしれない。
僕はとても嬉しい。
「彼」はどうやら僕の言葉がわかるようだ。
楽しい話をすると喜び、悲しい話をすると悲しんでくれる。
友達みたいだ。
僕はとても嬉しい。
ある日、学校から帰ってくると、
「彼」は自分でネズミを狩って食べていた。
残骸を加え嬉しそうに飛んでくる。
死にかけていたのが嘘のようだ。
僕はとても嬉しい。
だんだん大きくなってきた「彼」の食事の準備は大変だった。
食事量は増え、冷蔵庫からくすねるのが厳しくなってきた。
案の定両親に肉を盗んでいた事がバレた。
思いっきり殴られた。蹴られた。そして食事を抜かされた。
痛みと空腹で意識が途絶える直前、無意識につぶやいた。
「アイツら、消えないかなぁ」
次の日起きると、
リビングからくちゃくちゃという音と鉄の匂いがした。
「彼」が両親を食い殺していた。
汚い血と肉が充満している中、
気づいた「彼」が嬉しそうにこっちを見た。
褒めて、と言っているようだ。
勿論僕は「彼」を抱きしめた。
僕はとても嬉しい。
気に入らない奴を「彼」に言えば、
食い殺してくれる。
食事の準備もしなくて良い。
とても素晴らしい事だ。
僕のことを叱った先生、
いじめてきたクラスメート、
僕にぶつかってきた知らないお婆さん、
街中を歩くカップル、
手当たり次第伝えていった。
「彼」が美味しそうに食事するところは何回見ても飽きない。
僕はとても嬉しい。
一ヶ月後
この街には僕以外誰もいなくなってしまった。
逃げてしまった人もいるだろうが、
ほとんど「彼」の餌になった。
もう少しペース配分を考えれば、
もっと楽しめたのになぁ。
そう考えているうちに、だんだん自分に腹が立ってきた。
「嫌な奴だなぁ、僕って。」
そうつぶやいた。
するとそばにいた「彼」が僕に向かって
大きな口を開いた。
鋭い牙、生臭い口、ところどころにこびりついている肉。
今まで食われた人はこれを見ていたのかな。
僕はなんだかワクワクしてきた。
僕が育てた「彼」に食べてもらえるのだから。
普通なら怖いと思うかもしれない。
だが僕はもう完全に狂っていた。
「彼」に食べてもらうのは素晴らしいことだと
思い込んでいた。
目の前が暗転し、
鋭い痛みと窒息で意識を失う前、
僕は呟いた。
**僕は今、すごく嬉しいよ。**と。
もう食べるものがないと判断した「彼」は
毛繕いをし、姿を縮め、何処かに飛び去った。
次の餌を探すために。