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1 - 第1話「彼」

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2022年06月04日

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僕はみんなに内緒で飼っている生き物がいる。

種類はよくわからないがオスのようなので「彼」と呼んでいる。

もふもふしていて、牙があり、羽が生えている。

見つけた時は弱々しく死にかけていたが、

懸命に世話したことにより今はとても元気だ。

「彼」は肉食のようで、一口分の鳥もも肉を好んでよく食べる。

前は細く割いたササミだったので、少しづつ大きくなっているのかもしれない。

僕はとても嬉しい。


「彼」はどうやら僕の言葉がわかるようだ。

楽しい話をすると喜び、悲しい話をすると悲しんでくれる。

友達みたいだ。

僕はとても嬉しい。


ある日、学校から帰ってくると、

「彼」は自分でネズミを狩って食べていた。

残骸を加え嬉しそうに飛んでくる。

死にかけていたのが嘘のようだ。

僕はとても嬉しい。


だんだん大きくなってきた「彼」の食事の準備は大変だった。

食事量は増え、冷蔵庫からくすねるのが厳しくなってきた。

案の定両親に肉を盗んでいた事がバレた。

思いっきり殴られた。蹴られた。そして食事を抜かされた。

痛みと空腹で意識が途絶える直前、無意識につぶやいた。

「アイツら、消えないかなぁ」


次の日起きると、

リビングからくちゃくちゃという音と鉄の匂いがした。

「彼」が両親を食い殺していた。

汚い血と肉が充満している中、

気づいた「彼」が嬉しそうにこっちを見た。

褒めて、と言っているようだ。

勿論僕は「彼」を抱きしめた。

僕はとても嬉しい。


気に入らない奴を「彼」に言えば、

食い殺してくれる。

食事の準備もしなくて良い。

とても素晴らしい事だ。

僕のことを叱った先生、

いじめてきたクラスメート、

僕にぶつかってきた知らないお婆さん、

街中を歩くカップル、

手当たり次第伝えていった。

「彼」が美味しそうに食事するところは何回見ても飽きない。

僕はとても嬉しい。


一ヶ月後


この街には僕以外誰もいなくなってしまった。

逃げてしまった人もいるだろうが、

ほとんど「彼」の餌になった。

もう少しペース配分を考えれば、

もっと楽しめたのになぁ。

そう考えているうちに、だんだん自分に腹が立ってきた。

「嫌な奴だなぁ、僕って。」

そうつぶやいた。


するとそばにいた「彼」が僕に向かって

大きな口を開いた。

鋭い牙、生臭い口、ところどころにこびりついている肉。

今まで食われた人はこれを見ていたのかな。

僕はなんだかワクワクしてきた。

僕が育てた「彼」に食べてもらえるのだから。


普通なら怖いと思うかもしれない。

だが僕はもう完全に狂っていた。

「彼」に食べてもらうのは素晴らしいことだと

思い込んでいた。


目の前が暗転し、

鋭い痛みと窒息で意識を失う前、

僕は呟いた。


**僕は今、すごく嬉しいよ。**と。







もう食べるものがないと判断した「彼」は

毛繕いをし、姿を縮め、何処かに飛び去った。

次の餌を探すために。

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