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「〇〇行き電車は人身事故のため現在運行を見合わせております。ご利用のお客様には、、、、」
電車が止まった。
構内アナウンスが何度も繰り返される中、私はホームに最前列に立って、ぼんやりと空を見上げていた。
しんどいな、と思った。
朝からバタバタして、なのにこんなところで足止め。時間だけが溶けていくみたいだ。
ふと、向かいのホームに目をやった。
人の波に紛れるように、
だけどなぜか、はっきりと目に飛び込んできた人影があった。
――律に、似てた。
まさか、と思う。
だって何年も前に、ちゃんと終わったはずの人だ。
もう思い出の中だけで十分だったのに、
その目線だけで、あっけなく今の私を揺らしてくる。
向こうも、こっちを見ていた。
確信はなかった。でも、そうだった気がした。
電車が通過する音が、私たちの間を裂くように流れていく。
見てはいけない気がして、私は目をそらした。
何もなかったふりをした。
心の中で、名前だけを呼んで。
――律。
私の中の“海”が、少しだけ波立った。