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(仮)たられば

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(仮)たられば

1 - プロローグ

♥

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2025年08月04日

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「〇〇行き電車は人身事故のため現在運行を見合わせております。ご利用のお客様には、、、、」


電車が止まった。

構内アナウンスが何度も繰り返される中、私はホームに最前列に立って、ぼんやりと空を見上げていた。


しんどいな、と思った。

朝からバタバタして、なのにこんなところで足止め。時間だけが溶けていくみたいだ。



ふと、向かいのホームに目をやった。


人の波に紛れるように、

だけどなぜか、はっきりと目に飛び込んできた人影があった。


――律に、似てた。


まさか、と思う。

だって何年も前に、ちゃんと終わったはずの人だ。

もう思い出の中だけで十分だったのに、

その目線だけで、あっけなく今の私を揺らしてくる。


向こうも、こっちを見ていた。

確信はなかった。でも、そうだった気がした。


電車が通過する音が、私たちの間を裂くように流れていく。


見てはいけない気がして、私は目をそらした。

何もなかったふりをした。

心の中で、名前だけを呼んで。


――律。


私の中の“海”が、少しだけ波立った。


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