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姫子は走りながら何度も振り返っていた。自転車に乗ったお巡りさんがずっと追い掛けて来るのだ。
『こんな所で捕まってたまるか!』
その一心で、姫子は走り続けた。
上空を旋回しているヘリコプターの音と、何処からか聞こえるパトカーのサイレン音を喧しく思いながら、甲州街道を通り過ぎると背後で絶叫が聞こえた。
「止まれー! 止まりなさい!」
パン!
破裂音がした。
姫子はその音に驚いて、振り向きざまにひっくり返って地面に倒れた。
何故だか目の前にお巡りさんの自転車が降ってきた。姫子の全体重が、新鮮な2尾の生さんまにのしかかる。
地面に倒れた姫子の胸元から潰れたさんまの血が流れ出て、通行人達は「ぎぃやああああああ!!」と悲鳴を上げて一目散に逃げて行った。
姫子は立ち上がって、見るも無残な目黒のさんまを呆然と眺めた。
込み上げる怒りに振り向くと、つんのめってひっくり返ったお巡りさんが気絶していた。
前方の自転車は前輪のタイヤが破裂している。
姫子は我に返った。
『目黒のさんまは無理だけど、渋谷のさんまがあるじゃない!』
ポジティブ思考が持ち味の姫子は再び走り出していた。