テラーノベル
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彩月と二人でエレベーターに乗り、会社を出る。大須方面に向かって歩き出すと「あれ」と彩月の声。
パッと顔を上げると、少し先の横断歩道で信号待ちをしている男女。
それは元カレと燎子が腕を組んでいる姿だった。背の高い2人は、後ろ姿もお似合いだ。
「え、どういうこと……?」
彩月が心配そうに私の顔を覗き込む。
「あー、なんかそうらしいよ」
「うそでしょ? じゃあ……」
「……もういいんだ」
こっちからいこう? と声をかけて少し遠回りになる裏通りを歩いていく。
「ねぇ、どういうこと?」
「付き合ってるみたいだよ」
「はぁ? だって花音と別れてからひと月くらいしか経ってないじゃない」
訳わからん! とぶりぶり怒る彩月の態度に笑いが込み上げてくる。
「何笑ってるの?」
「ううん、彩月ありがとう」
「……早く行こう。お腹すいた」
裏通りにはこども園があって、お迎えの人が子ども連れでちらほらと歩いている。
いつかここに自分の子どもを通わせながら出勤できればと思ったこともあったけど、それも遠くなった。
小さく息をつくと、こども園の門からスーツ姿の人がパッと出てくる。
お父さんにしては若いような。暗い中でよく見えないけどあれは……。
「あれ、永井くんじゃん。お疲れさま!」
彩月がそのスーツの人に声をかけた。
びっくりした様子のその人がこちらを向くと、それは確かに永井くんだった。
「お疲れ様です」
「営業? それとも隠し子ー??」
へぇっ!? 隠し子? とりあえず、子どもは連れていない様子だけど……。
「営業です」
会社は水回り設備全般を取り扱っている。一般家庭用の商品から、小学校やこども園などのトイレ設備から調理室まで幅広い。
「いまからご飯行くけど、一緒にどう?」
「あー……」
彩月がそう誘うと、チラッと私を見る永井くん。びくっとしてすっと姿勢を逸らした。
「イタリアンだよ、最近新しくできたんだって」
「そうですね……じゃあせっかくだし行こうかな」
「へぇっ!?」
絶対断るだろうと思っていた。永井くんは会社の飲み会にはほとんど顔を出さない。全員参加の歓送迎会に来ているのをみる程度。
永井は付き合いが悪い、という話はよく耳にする。
「なによ花音、変な声出して」
「いや、な、なんでもないよっ!!」
それじゃあ行こうと三人で歩き始める。彩月と永井くんが前を歩いてそのうしろをついていく。
商店街の入り口にあるイタリアンバル。丸いテーブルを囲んで、ビールを煽った。
「この店なら裏通りより、表いったほうが近くないです?」
永井くんは、なぜ私たちが裏通りを歩いていたのか不思議に思ったらしく、話を振ってきた。
「あー、えっと、ね、ほら花音」
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