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言葉につまった彩月が私に目配せする。もうすでに永井くんはことの顛末を知っているけれど、もちろん彩月はそんなことになっているとは知らない。
ややこしいなと思いつつ、ポツポツと話を始めた。
「藤原さんと風見さんが付き合ってるのは知ってましたけど、そうだったんですね」
「あはは……」
永井くんは、初めて聞いた体で話を聞いていた。ふーんと相変わらず興味はなさそうだったけど。
クールな印象の強い永井くん。でも営業ナンバーワンなだけはあって、話はうまい。
営業の極意は、相手にしゃべらせること。そうはよく聞くけれど、永井くんはそれが上手だ。
お酒を飲んで機嫌を良くした彩月が永井くんにのせられてわぁわぁとしゃべる。ゲラゲラ笑っていると楽しくて時間が溶けた。
「あ、ちょっと電話してくるね」
二十一時を過ぎた頃、彩月が席を立った。
急に二人っきりになり、気まずくてグラスに目を落とす。
「花音」
そう少し低い声で呼ばれて、パッと顔を上げた。
右隣にいた永井くんとカチッと目が合う。お酒のせいなのかなんなのか、心臓の音が大きくなる。
「な、に?」
「計画の方はどうですか?」
「う、、うん。けっこう順調かも」
「こっちも人間スピーカーに軽く話しておきました」
「そんな人いたっけ?」
噂好きのおばちゃん社員が、ちょうどリフレッシュルームで私と元カレの話をしていたらしく、もう別れたようだと吹きこんだそう。
今週中には、あちこちに噂が広まるだろうとのこと。なかなかやるな、人間スピーカー……。
「仕事、がんばってくださいね」
「は、はい……」
「それと」
「ん?」
すっと耳元に唇をよせて、彼がささやく。
「セックスしたいんですけど、この後いいですか?」「へえっ!! き、きょう?」
あわあわと慌てていると顔が熱くなってくる。きちんと返事をしないうちに彩月がバタバタと血相変えて戻ってきた。
「ごめん、急用!! 帰るわ!!」
「え? な、なにごと?」
「説明してる暇ないの!! お金あとで請求して!!」
「ちょっと、何言って……彩月!?」
ドカドカと音がするくらい慌てて荷物を持ち、コートも着ずに彩月は店を後にした。えっと、なに? この状況。
ぽかんと彩月が出ていったお店の入り口を見つめていた。油の切れたロボットがぐぎぎと首を回すように、ぎこちなく永井くんの方を見る。
「すごく急いでましたね」
「あ、はは、そ、だね」
「どうします? このあと」
ほんの少しだけ首を傾げて訊ねてくるその顔はなんだかものすごい破壊力を持っているような気がする。
で、でもでもっ!! 率直な気持ちを伝えなきゃ!! とにかく毎日は無理ですっ!!