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食事が終わると、元貴は「ちょっとトイレ借りるね」と言い、廊下の奥へ向かった。扉を閉め、ふと視線を洗面台に向ける。
そこには、血のにじんだカッターと使いかけの包帯、そして開封済みの睡眠薬のボトルが無造作に置かれていた。
元貴はしばらく立ち止まり、それらを静かに手に取る。
包帯の端に、まだ新しい赤い染みがあるのを見て、胸の奥がきゅっと痛む。
睡眠薬のラベルを確認し、カッターの冷たい刃先をじっと見つめた。
——けれど、元貴は深く呼吸を一つして、何もなかったようにすべてを元の位置に戻す。
気持ちを整えて、もう一度明るい表情をつくり、リビングへ戻った。
テーブルの向こうで、若井と涼ちゃんが小さな声で話している。
元貴は何も見なかったふりで、ふたりの輪の中に静かに加わった。