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け 〜 ち ゃ ん .
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涼ちゃんのマンションは、
空を切り裂くような冷たいコンクリートの塊だった。
オートロックの向こう側、厳重なセキュリティに守られた「清潔な檻」。
そこに、泥にまみれた若井が立っていた。
若井の目は血走り、頬はこけ、雨に濡れた髪が顔に張り付いている。
仕事も家も、元貴という生きる理由さえも失った彼は、もはや人間というよりは、獲物の匂いを追う獣のようだった。
「……見つけた。……元貴、そこにいるんだろ……」
若井は、住民が入り込む
一瞬の隙を突いてエントランスを突破する。
涼ちゃんの部屋は最上階。
エレベーターの鏡に映る自分の姿を見て、若井は低く笑った。元貴が「きもちわるい」と言った、あの顔。
今の自分は、それ以上に醜く、壊れている。
ピンポーン、と無機質なチャイムが鳴る。
涼ちゃんがドアスコープを覗く必要もなかった。
この時間にここへ来る「招かれざる客」は、一人しかいない。
涼ちゃんは、ソファで薬の余韻に浸り、ぐったりとしている元貴の頭を優しく撫でてから、ドアを開けた。
「……意外と早かったね、若井。
もっと底辺で野垂れ死ぬかと思ってたよ」
涼ちゃんは、あざ笑うような笑みを浮かべてドアの隙間から若井を見下ろした。
若井の体からは、下水の匂いと雨の匂いが混ざった、むせ返るような死臭が漂っている。
「……元貴を、返せ」
若井の声は、地底から響くような不気味な低音だった。
その右手には、アパートから持ってきた、刃こぼれした果物ナイフが握られている。
「返せ? 言い草が面白いね。……元貴、聞こえる? 君をあんなに苦しめた怪物が、また君を迎えに来たよ」
涼ちゃんがわざとらしく部屋の奥へ声をかける。
元貴は、焦点の合わない目で入口の方を見た。
涼ちゃんに与えられた「新しい毒」のせいで、彼の体はもう自分の意思では指一本動かせないほどに弛緩している。
「……ぁ、……わか……い……?」
元貴の口から漏れた、懐かしい名前。
その瞬間、若井の理性が弾けた。
「元貴ィィ!! 俺だ、若井だ!!
助けに来たぞ、今度は絶対に離さないからな!!」
若井が無理やりドアをこじ開け、涼ちゃんを突き飛ばして部屋に乱入する。
白を基調とした、あまりに清潔な部屋。そこに、若井が持ち込んだ「泥」が飛び散る。
若井はベッドへ走り寄り、元貴を抱きしめた。
「……あ、……あぁ……元貴……。
冷たい、こんなに体が冷たくなって……。
涼ちゃん、お前、元貴に何を……!!」
涼ちゃんは床に倒れたまま、口角を吊り上げた。
「……僕が何をしたかって? 僕はただ、彼が望む『静寂』を与えただけだよ。君が与えていた『ノイズだらけの愛』より、ずっとマシだろ?」
若井のナイフの先が、涼ちゃんの喉元に向けられる。
しかし、涼ちゃんは微塵も恐れる様子はなく、
ただ狂気に満ちた瞳で若井を見つめ返した。
「……殺せばいい。
そうすれば、君は一生『元貴を壊した殺人鬼』として、彼の記憶に刻まれる。
……それとも、三人でここで終わる? 最高のエンディングじゃないか」
若井の腕の中で、元貴が力なく笑った。
その笑みは、救いを求めているのか、あるいはすべてを諦めているのか、誰にも分からなかった。
コメント
3件
もう泥だけにドロドロ… ひろぱ、涼ちゃんみんな怖い…